ブタに振動カプセルを与えると、食事量が40%も減少する
今回スリニヴァサン氏ら研究チームが開発したのは、マルチビタミンとほぼ同じサイズの振動カプセルです。
カプセルの内部には小型の電池と振動モーターが入っています。
カプセルの外部はゼラチン状の膜で覆われており、この膜が胃液によって溶けることで、振動モーターのスイッチが入るようになっているのです。
そして胃の中で約30分間振動が続き、カプセルは最終的に排泄されます。
もし振動によって胃の機械受容器に「伸びている」と錯覚させられるなら、満腹感が得られる可能性があるでしょう。
そこで研究チームは、この効果と安全性を確かめるため、12頭の豚で実験しました。
実験では、一方のグループに振動カプセルが与えられ、もう片方のグループには何の効果もないプラセボカプセルが与えられました。
そして2週間、合計108回の食事とブタたちの食物摂取量が観察されました。
その結果、エサを与える約20分前にカプセルを振動させると、カプセルを作動させなかった場合と比較して、エサの摂取量が平均で40%も減少しました。
また振動カプセルを投与したグループは、この実験期間中、体重増加のスピードが遅くなりました。
さらにチームが、カプセルを与える前後でブタから血液サンプルを採取したところ、振動カプセルが与えられたブタでは、空腹ホルモンであるグレリンの濃度が低いことを発見しました。
振動カプセルを与えると、ブタの体は「胃が膨らんだ」と錯覚し、十分な量のエサを食べた時のように空腹感が無くなっていたのです。
では振動カプセルの安全性についてはどうでしょうか。
研究チームが実験に参加したブタの胃を調べたところ、擦り傷や刺激、炎症の跡は見つからず、胃の内側に害を及ぼさないことが示唆されました。
もし、この「満腹感を与える振動カプセル」が、人間に対しても同様に働くのであれば、食欲をコントロールして肥満から抜け出すのに役立つ可能性があります。
もちろん、自分の意志で食欲をコントロールし、運動によって体重を落としていけるなら、それがベストでしょう。
それでも現代では、その方法で痩せられない人たちが、薬剤を使用したり、胃を切除したりして過度な肥満に対処しています。
これらの方法と比べると、「振動カプセルを飲み込んで満腹だと錯覚させる」方がより安全で、デメリットが少なく、安価である可能性があります。
もちろん、空腹感だけが人に何かを食べるよう誘惑するわけではありません。
ストレスなどが原因で過食するケースもよく見られるため、振動カプセルが人間にどの程度効果があるのかは、実際に試してみるまで分かりません。
今後研究チームは、臨床実験を開始するために必要なステップを踏んでいく予定です。