月面で落下すると?
一方で、月面の重力は地球の約6分の1であり、重力加速度も約1.6m/s²しかありません。
こう見ると、月ではある程度の高所から落下しても大丈夫そうですが、決定的に重要なのは月に大気がほとんどないことです。
つまり、月でスカイダイビングをすると、落下速度を遅らせるための空気抵抗がほぼないため、どんどん加速し続けるのです。
例えば、人間が月面に建てられた高さ100メートルのビルから飛び降りるという思考実験をしてみましょう。月面のように空気抵抗がなく落下速度が上がり続けけた場合、重力加速度が1.6m/s²だったとしても最終的に地面にぶつかる瞬間、その人物は時速64.4キロに達します。
これは自動車事故として考えた場合、この速度で正面されれば人間がただでは済まないことは容易に想像できるでしょう。

もし、ドバイにある世界一高いビル「ブルジュ・ハリファ(全高829.8m)」を月面に建てて、その頂上からダイブしたとすると、時速200キロ近いスピードで月面に激突することになります。
こうなるともう明らかに即死レベルですね。
よって重力が小さいとはいえ、月面で高所から落下することはとても危険なのです。
実際には数メートルの高さの落下でも危ない
ここまでは極端な想定の思考実験を話しましたが、現実的な問題を考えた場合、月面ではほんの数メートルからの落下でも命の危険があります。
というのも、月面で呼吸するために装着している背中の生命維持装置が破損してしまう恐れがあるからです。
実際にその危険に見舞われた人物がいます。
NASAの宇宙飛行士だったジョン・ヤングは、1972年のアポロ16号による有人月面着陸を成功させたクルーの一員でした。
その年はちょうどミュンヘン・オリンピックが開催された年であり、ヤングは同僚のチャーリー・デュークと共に「ルナ・オリンピック(Lunar Olympics)」と称して、月面でどれだけ身体を動かせるかを試しました。
そこで2人してハイジャンプ(高く跳ぶ)をしていたところ、ヤングは背中の生命維持装置の重みに引っ張られ、1.2メートルの高さから月面に衝突してしまったのです。
その貴重な瞬間が映像として残っています、
ヤングはそのときの心境をこう振り返っています。
「バックパックを地面に打ちつけてしまった瞬間、私の心臓は恐怖でいっぱいになりました。まさにパニックです!
月に滞在した中で本当にパニックに陥り、『死んだ』と思ったのはこの時だけでした」
幸いにも呼吸器に問題は起こりませんでしたが、これくらいの衝撃でもスーツに異常が出る可能性は高く、命の危険に晒されてもおかしくないといいます。
そのため、月面ではスカイダイビングは言うまでもなく、ちょっとした高台から飛び降りるのも注意が必要なのです。
正面されれば→衝突されれば、あるいは、正面衝突されれば