謎の腕振り生物「メテオラ」とは?
メテオラ(学名:Meteora sporadica)は2002年に地中海の深海の堆積物中から初めて発見されました。
大きさは長さ約3.22㎛、幅約2.76㎛のミクロサイズで、単細胞の原生生物に分類されます。
原生生物とは、真核生物(※)のうち、菌界にも植物界にも動物界にも属さない生物の総称です。
※ 真核生物は、細胞内にDNAを含む核をもつ生物群で、動物・植物・菌類を含みます。
反対に核をもたないグループが原核生物で、こちらには細菌(バクテリア)と古細菌(アーキア)が含まれます。
メテオラは卵型の体の前後左右に計4本の突起をもち、左右の短い2本の腕のような突起を振りながら底面を滑るように移動します。
こうした移動方式は、すでに知られているどの原生生物にも見られない特徴なのだそう。
その一方で、メテオラの細胞内部の構造や生物学上の正確な位置付けはまだ明らかになっていません。
過去の研究報告も、顕微鏡による観察結果のみに基づいていて、細胞内の構造や遺伝子配列の情報は不明のままでした。
細胞内の複雑な仕組みを解明!
そこで研究チームは今回、宮古島およびキューバの沿岸部の堆積物中からメテオラを採取し、詳細な調査を行いました。
透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、メテオラは複雑な細胞骨格をもっており、細胞の中心には複数の微小管形成中心(MTOC)が見つかっています。
MTOCとは、真核生物の細胞内に見られる構造体で、一般的には鞭毛や繊毛の組み立てという主要な機能を担います。
メテオラの場合、前後左右の4本の突起は、このMTOCから伸びる微小管(管状の構造体)によって支えられていたことが判明しました。
下図Bの白矢印で示された黒い点がMTOCで、そこから伸びる管状のものが微小管です。
加えて、突起の中には「射出装置」と思われる顆粒があり、これを使って餌となるバクテリアを捕まえて食べている可能性が示されました。
射出装置は、何らかの刺激によって細胞外に放たれる構造体です。
顕微鏡観察では実際に、メテオラがバクテリアを捕まえている様子が撮影されています。
メテオラはどの生物と近縁なのか?
それから254遺伝子のアミノ酸配列を用いた系統解析により、メテオラはこれまでに知られている真核生物の主要な系統群(=スーパーグループ)には含まれないことが判明しました。
スーパーグループとは、真核生物の多様性と複雑な進化の歴史を理解するために設けられた分類群で、例えば、動物と菌類を含む「オピストコンタ」、藻類や植物を含む「アーケプラスチダ」など、6つのグループがあります。
しかしメテオラはこれらには属さず、真核生物の中の非常に古い系統群である「ヘミマスティゴフォラ」と近縁であることが分かったのです。
ヘミマスティゴフォラは、真核生物において最も早い時期に他の仲間から分岐したグループの一つと考えられています。
メテオラとヘミマスティゴフォラは互いに似た存在のようですが、他方で、メテオラは小型で突起をもつのに対し、ヘミマスティゴフォラは大型で突起ではなく鞭毛をもつなど、特徴に大きな違いがあります。
このことからチームは「メテオラ-ヘミマスティゴフォラ系統群には、他のスーパーグループに匹敵する多様性があるのかもしれない」と話しました。
チームは今後、この系統群に属する新たな生物が見つかれば、メテオラとヘミマスティゴフォラがそれぞれどのような進化の過程を歩んだのかを明らかにできると考えています。
このように地球上には、私たちの知らない生物がまだまだ隠れていそうです。