中国のベータボルト社が「民生向けの原子力電池」を発表
「原子力電池」とは、放射性同位体(原子核が不安定で放射線を出しながら崩壊していく同位体)が発する熱エネルギーを利用した電池です。
崩壊が続く時間は、放射性同位体の種類によって様々なので、より長く続くものを用いることで寿命の長い電池が得られます。
その寿命は「数十年」または「百年以上」とも言われており、人間にとっては「一生使える電池」となります。
しかし、原子力電池は放射線を発生させるリスクがあるため、使用時や廃棄時には適切な管理・処置を行わなければいけません。
その危険性から用途が限られており、日常生活では使用できませんでした。
これまでに原子力電池が使用された例としては、地球から遠く離れた場所で活躍する「宇宙探査機」や「人工衛星」などがあります。
実際、1977年に打ち上げられた無人宇宙探査機「ボイジャー1号」「ボイジャー2号」には、原子力電池が搭載されており、数十年にわたって、それらのコンピューターに電力を供給し続けてきました。
これほど長持ちする電池を民生向けに開発できるなら、私たちの生活は一変することでしょう。
原子力電池の小型化や民生化は、世界的にも注目されている分野なのです。
そして最近、中国のベータボルト社は、民生向けとしては初めての超小型原子力電池の開発に成功したと発表しました。
彼らが開発したと主張する原子力電池は、放射性同位体ニッケル63を利用したものです。
ダイヤモンド半導体の間に厚さ2μmのニッケル63のシートを配置し、モジュール化することで、ニッケル63の崩壊エネルギーを電力に変換できるというのです。
彼らの発表では、原子力電池1つのサイズが15mm×15mm×5mmとなっており、1円玉(直径20mm、厚さ1.5mm)よりもコンパクトです。
そして、この電池1つで100μWの電力を50年間にわたって供給し続けられるようです。
これは非常に小さい電力なので、これ1つでスマホを充電することはできません。
ただし、無線タグ(アクティブRFIDタグ)や、超低消費電力のセンサーに電力を供給することはできるでしょう。
ベータボルト社の計画では、2025年までに原子力電池の供給電力を1Wにまで拡大する予定であり、LED照明などに電力を供給できる可能性があります。
また、このモジュールを複数つなげることも可能であり、発展させていくなら、いずれ「50年間充電せずに使えるスマホ」などが誕生するのかもしれません。
現在では15分ほどしか連続飛行できないドローンも、いつまでも空を飛び続けることが可能になるでしょう。
加えて、ベータボルト社によると、今回開発された原子力電池のエネルギー密度はリチウム電池の10倍以上であり、過酷な環境でも安定して電力を供給できるとのこと。
彼らは、「原子力電池が-60℃~120℃の環境でも正常に動作し、発火や爆発、劣化の危険性はない」と主張しています。
さらに「外部に放射性物質を放出することもないため、医療機器にも応用可能」「ニッケル63は最終的に非放射性の銅同位体に変化するため脅威ではない」とコメントしています。
これら一方的な発表がすべて本当であれば、私たちの生活は遠くない将来に一変するはずです。
とはいえ、この発表をすべてを信じるには、専門家たちの客観的な評価がなされるまで、待ったほうがよいでしょう。
ベータボルト社は、2025年には商業用の原子力電池を大量生産する計画を立てており、少なくともその時期には、「正しい答え」が得られそうです。