クマムシたちは海から陸に2度にわけてやってきた
クマムシたちはどうやって超耐性能力を獲得したのか?
調査において特に着目されたのはクマムシが持つ、熱に強いタンパク質(熱可溶性タンパク質)の遺伝子やストレス耐性遺伝子の存在でした。
普通の生命のタンパク質は60℃前後の高温に晒されると変性して失活してしまい、水に溶け込む能力を失って沈殿しまいます。
一方、熱可溶性タンパク質は90℃以上になっても水に溶ける能力を維持しており、クマムシの驚異的な耐性能力を支える仕組みを構成していると考えられています。
熱可溶性タンパク質は細胞内の働く場所によっていくつかに別れており、真クマムシ網に属する種では細胞質部分で働くもの(CAHS)、ミトコンドリア内部で働くもの(MAHS)、細胞外部に分泌されて働くもの(SAHS)の3種類が確認できました。
一方、異クマムシ網に属する種では別系統ながらも同じ働きをするEtAHSαとEtAHSβの2種類が確認されています。
またストレス耐性遺伝子としてはMRE11の存在が調べられました。
また上の図の右の数値はそれぞれの種が持つ熱可溶性タンパク質の遺伝子数とストレス耐性遺伝子の数となっており、真クマムシ網と異クマムシ網では系統が大きく異なる熱可溶性タンパク質を利用していることがわかります。
この結果は、クマムシの海から陸地への進出イベントは独立した2回によって行われたことを示しています。
(※1つ目は真クマムシ網、もう1つ目は異クマムシ網。それぞれの耐性のよって立つ遺伝子が異なるということは、陸上への進出が時と場所を別にして独立していることを示唆します。)
というのも、陸上に進出した先祖が共通である場合、重要な耐性を授けてくれる熱可溶性タンパク質が同じだと考えられるからです。
次に研究者たちは遺伝子の数と生息地の関係を調べました。
事前の予想では、乾燥しやすい地域に住むクマムシは熱可溶性タンパク質の遺伝子数が多く、湿った地域に住むクマムシは逆に少ないと考えられていました。
しかし詳しく分析したところ、ある程度の一致がみられる場合があるものの、全体として、乾燥度度合いと熱可溶性タンパク質の遺伝子数には明確な相関関係が存在しないことが示されました。
たとえば乾燥耐性が強いオニクマムシと乾燥耐性が弱いチョウメイムシを比較したところ、熱可溶性タンパク質の数はオニクマムシのほうが少なくなっていました。
このことから研究者たちは、クマムシたちに刻まれた遺伝子のパターンは、現代の陸上種の生活場所とは一致せず、もっと複雑な過去に起きた適応を反映している可能性があると述べています。
数億年前に2回にわけて海から陸にあがったクマムシたちは、いったいどんな激動の歴史と進化を体験したのでしょうか?
将来の研究で理解が進めば、驚異的な耐性を持つ生物たちの適応戦略を浮き彫りにできるでしょう。