自然の中では「時間がゆっくり」になる
トゥルク大学のリカルド・コレイア(Ricardo Correia)氏は今回、自然環境に身を置くことで私たちの主観的な時間知覚がどのような影響を受けるかを調べようと考えました。
そのために同氏は「自然体験」と「時間知覚」の関連性について報告した過去の先行研究を集めて詳しくレビューしています。
その結果としてコレイア氏は、自然体験が時間知覚の少なくとも2つの側面である「時間的持続(Temporal Duration)」と「時間的展望(Temporal Perspective)」にポジティブな影響を与えることを発見しました。
まずは「時間的持続」です。
これは「時間がどれくらい経ったか」とか「時間がどれくらいのスピード感で流れているか」といった私たちの主観的な時間感覚を示しています。
これは時計のような客観的な時間とは違うものです。
例えば、時計の時間ではどこでどんなことをしていようと同じ10分間ですが、主観的な時間は同じ10分間でも、楽しいことをしているときと退屈なときとで感じる長さが変わってきます。
こちらが時間的持続です。
そしてコレイア氏の調査では、自然の中にいる人々は都会にいるときに比べて、時間がゆっくり流れているように感じ、結果として「実際の時計の時間よりも長くそこにいたと感じる」傾向があることが発見されました。
下図の真ん中(ⅰ)がそれを端的に示したものです。
都会では「時計の時間」と「知覚された時間」の長さがだいたい一致しますが、自然では「時計の時間」よりも「知覚された時間」の方が長くなっていたことを示します。
次に「時間的展望」です。
これは自らの人生における「過去・現在・未来」という時間軸に対してどのような見方をしているかを示します。
コレイア氏によると、過去・現在・未来への見方がどれか一つに偏って固執してしまう人は精神的な問題を抱えていたり、危険な行動を取りやすいといいます。
例えば、トラウマ体験によって過去ばかりに縛られている人は先に前進することができませんし、逆に過去を気にせず未来ばかり見ている人は衝動的な行動を取りやすく、失敗を繰り返しやすいと考えられます。
最もいいのは過去・現在・未来の間を平等に行き来して、人生に対してパランスの取れた展望を持つことです。
そしてコレイア氏の調査では、都会にいるときには時間的展望に偏りが起きやすいのに対し、自然にいるときはバランスの取れた時間的展望を持ちやすくなることが示されました(図のⅱ)
以上の結果を受けてコレイア氏は「既存の研究は、自然体験が豊かな時間知覚の獲得に重要な役割を果たしていることを強く示している」と指摘。
その上で「自然が私たちの精神的な健康に与えるポジティブな作用をもっと重視すべきでしょう」と主張しました。
その一方で、現在のところは「自然体験のどんな要素が私たちの時間知覚を豊かにする要因となっているのか」がよく分かっていないといいます。
この点を明らかにすることはとても重要です。
というのも時間知覚を豊かにする自然の要因が分かれば、その要素を都市部の公園や散策地に取り入れることで、都会での生活の質を高められる可能性があるからです。
「自然で過ごすのがいい」と口では簡単に言えても、すぐさま都会から自然の豊かな場所に移住できる人はそうそういません。
そうした中で、自然の良さを都市部の中に持ち込めることができれば、多くの人に豊かな時間を提供できるようになると期待できます。
そのような場所はまさに都会の中で私たちに時間を与えてくれる”精神と時の部屋”のような存在になるかもしれません。