ニューラリンクの「超小型チップ」の仕組みとは?
人間の脳には全部で約860億個のニューロン(神経細胞)があり、ニューロン同士はシナプスでつながっています。
私たちが思考するたびに、小さな電気信号がニューロン間を信じられないスピードで飛び交っています。
研究者たちはこれまで、さまざまなデバイスを介して、脳内のの電気信号を検出し、脳が何を考えているかを明らかにする技術の開発を進めてきました。
こうした脳とコンピューターを直接的に接続する技術を「ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)」と呼びます。
BMIを使えば、頭で考えるだけでオンラインでの情報検索ができたり、複雑な計算をすることが可能になります。
マスク氏のニューラリンクもBMIの開発と進歩を目指して設立されました。
このBMIに関連する技術には、大きく分けて2つのタイプがあります。それが帽子のように被るだけで簡単につけ外し可能な非侵襲的な方法と、手術で脳内にデバイスを埋め込んでしまう侵襲的な方法です。
脳内の情報を読み取るとなると侵襲的な方法の方が信頼性は高くなりますが、治験者の負担は大きくなり、また一度装着すると取り外しは容易でないため抵抗感を抱く人も多いでしょう。
そしてニューラリンクのBMIは、チップを埋め込む侵襲的デバイスです。
ただ、これは従来のデバイスに比べると、小型化や機能面で遥かに先を進んでいます。
これまでのBMIは非侵襲的なキャップにせよ、侵襲的な脳内インプラントにせよ、大掛かりなワイヤに接続されるのが一般的でした。
ところが、ニューラリンクの超小型チップはコインを5枚重ねたくらいのサイズしかなく、その中にバッテリーや無線通信などの機能がすべて内蔵されているのです。
このサイズであれば、脳内に埋め込んでも日常生活に支障がないと考えられます。
具体的には、超小型チップを侵襲的な手術によって脳内に埋め込み、微細なワイヤーを通して神経活動を検出して、無線信号を外部の受信装置に送り返します。
データの質や量においても優れており、ニューラリンクの超小型チップには1024個の電極が用いられ、これは従来のデイバイスの数倍に匹敵するとされます。
これにより、ユーザーが思考した微細な電気信号をリアルタイムに拾い上げ、発話できない患者や全身麻痺の患者が伝えたいことを正確に読み取れるようになると期待されています。
ニューラリンクはブタやサルを用いた試験を行った後、2023年5月にアメリカ食品医薬品局(FDA)から超小型チップをヒトで試験する許可を得ました。
その第1号の治験者となったのが、米アリゾナ州出身の男性ノーランド・アーバーさん(29歳)でした。