量子もつれを使った情報伝達は加速できる
素粒子物理学における最大の成果は、私たちの宇宙には、物質を担当する粒子と、力を担当する粒子が存在することを体系的に示した標準モデルにあります。
上の図はその素粒子の標準モデルをシテしており、物質を担当するフェルミ粒子と物質間でやり取りされる力を担当するボース粒子と呼ばれる2種類の粒子の一覧となっています。
たとえば物質である水素原子核は3個のフェルミ粒子(2個のアップクォークと1個のダウンクォーク)によって構成されており、物質間で働く電磁気力という力の担当はボース粒子である光子となっています。
前ページでは、量子世界では存在確率によって粒子が光速を超えた位置に存在できることから、情報伝達速度は一見すると無限に思えるという話からはじまりました。
ですが今回の研究ではフェルミ粒子とボース粒子が持つ基本的な特性から話がはじまります。
物質を構成するフェルミ粒子は基本的に、空間内の同じ座標に2個同時に設置することはできません。
どんなに頑張って水素原子核を同じ位置に置けないことからも、わかるでしょう。
(※無理に同じ位置になるように無限に圧力をかけ続けると核融合したりブラックホールになったりします)
しかし力を伝える光などのボース粒子の場合、複数の粒子が同じ状態になり、同じ座標に2つ、3つといくらでも重ねて配置することも可能です。
またボース粒子である光子を同じ場所にどんどん重ねていくと、その場のエネルギーがどんどん大きくなっていくことが知られています。
そこで今回の研究ではシミュレーションを行い、ボース粒子の密度を増加させた場合に、情報伝達速度が変化するかどうかを調べてみました。
シミュレートに使われたのは通常型のコンピューターですが、時間を細かく区切ることで量子的な動きを再現しました。
これにより、従来型のコンピューターでも量子もつれの情報伝達速度を高い精度で実行することが可能になります。
すると興味深いことに、ボース粒子の密度と情報伝達速度が比例することが判明しました。
これまでの常識では、ボース粒子系もフェルミ粒子系と同様に、情報は一定の速度で伝達されると考えられていましたが、新たな発見は情報伝達の加速とという以前は考えられなかった現象を明らかにしました。
この発見により、ボース粒子を通じた情報伝達速度を加速させられることが明らかになりました。
しかし、この加速メカニズムを用いても、量子もつれをつかった情報伝達速度が光速以下に留まり続けました。
研究者たちは「これらの結果は、情報伝達速度には自然界の法則によって上限が存在することを意味している」と述べています。