実験用マウスは一種の探索行為として「意図的に間違えていた」
追加の実験では、十分に訓練されたマウスに対して、報酬を与えることを一時的に中止しました。
つまりマウスは正しい方向にハンドルを回しても、報酬の水がもらえなくなったのです。
そうすると、どうなったでしょうか。
すぐに正解の反応が倍増しました。
マウスは失敗を犯すことをやめ、どちらの音に対しても右と左にハンドルを訓練時に報酬がもらえた正しい方へ回し始めたのです。
この結果は、マウスがルールを理解していながらも、意図的に報酬を放棄し、失敗を犯していたことを示唆しています。
意図的に間違いを犯していたマウスが、正しい方向にハンドルを回しても報酬が得られないことに気づき、「あれ?おかしいな。こっちは正しいはずなのに」と焦り、何度も正しい方法を繰り返すようになったのです。
では、どうしてマウスは意図的に失敗を犯すのでしょうか。
研究チームは、今回の実験から、最初に立てた仮説の1つである「一種の探索行為として間違った方法を選択している」可能性が高いと考えています。
マウスは学んできたルールが正しいのかどうか、あえて正解とは別の方法を試してみるなど、継続的に探索したり再確認したりしている可能性があるのです。
つまり、人間が実験で用いているマウスは、自分でも色々と実験していることになりますね。
ちなみに、クチボトラ氏によると、このようなマウスの学習方法は、言語を扱うことができない人間の赤ちゃんの学習方法に似ているのだとか。
大人は言語に頼ってルールを明確に理解できますが、言葉を話せない赤ちゃんやマウスは、絶えず自分でルールを見つけなければならず、しかもそのルールを継続的に行動で確かめなければならないというのです。
確かに、口頭または書面による指示が与えられると、私たちは自分がやるべきことをはっきりと理解できるので、探索する必要はありません。
しかし、それらの指示が与えられないなら、色々試して継続的な探索から真に効率の良い正解を見つけ出すしかありません。
マウスもそのような原理で意図的に間違いを犯しているかもしれないことを考えると、動物が、単なる「刺激に反応するマシン」でないことは明らかです。
当初、クチボトラ氏は、十分に訓練されたはずの実験用マウスがミスを犯すことに対して困っており、「かなりイライラすることもある」と述べていました。
同じように感じてきた研究者たちも少なくないでしょう。
しかし今回の研究を通して、クチボトラ氏は「マウスは驚くほど戦略的だった」「マウスが何を考えているかを解明することは本当に楽しかった」「私たちは動物の視点から考えなければいけないのだ」と述べました。
確かにマウスの失敗は人間の実験者を困らせるものですが、マウスたちもまた「実験者」であることを考えると、人間の実験者たちは真逆の感想を抱くはずです。
探索行動はε-Greedy法とか、特定のアルゴリズムで説明できるのかな?
無内言語症の人の行動と似ているのかなぁ