MITが「量子爆弾検査」を跳ね回る液滴で再現することに成功!
MITが「量子爆弾検査」を跳ね回る液滴で再現することに成功! / Credit: Phys. Rev. E 88, 011001(R) (2013)
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MITが「量子爆弾検査」を跳ね回る液滴で再現することに成功!

2024.05.09 Thursday

量子力学を覆う奇妙なベールに裂け目が見えたのかもしれません。

米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)で行われた研究により、量子爆弾検査と呼ばれる何も触れずに物体の存在を検知する技術が、液滴サイズの大きなサイズで再現できたと発表しました。

通常の非破壊検査ではX線や超音波、ミューオンなどを発射しその反射を測定することで、内部の物体のアルナシを確かめます。

ですが量子爆弾検査でいう「何も触れない」という表現は、光も音も素粒子もこの世に存在するあらゆるものに一切触れないことを意味しています。

今回はこの究極の物体検知方法が液滴サイズにおいても機能していることが確認されました。

さらに研究では液滴サイズの挙動を分析することで、量子世界の粒子と波という概念の本質を探れる可能性についても検討されています。

しかしそもそも、なぜ「何も触れない」のに、物体の検知が可能なのでしょうか?

研究内容の詳細は『Physical Review A』にて掲載されています。

MIT researchers observe a hallmark quantum behavior in bouncing droplets https://news.mit.edu/2023/mit-researchers-observe-hallmark-quantum-behavior-1212
Misinference of interaction-free measurement from a classical system https://doi.org/10.1103/PhysRevA.108.L060201

量子爆弾検査とは何か?

まずは少し深い話です。

日常の世界にある物体はおおむね見た目通りであり、ボールはボールとして存在し、投げた時も1本の軌跡だけを残します。

しかしボールのサイズをどんどん小さくしていき量子の世界に入ると、奇妙なことが起こり始めます。

量子レベルまで小さくなってしまった物体は「粒子と波」という2つの性質を同時に持つようになり、1つの物体が壁に開いた2つの穴を同時にすり抜けるといった、奇妙な現象が起こり始めます。

しかし「大きな日常世界」と「小さな量子世界」の線引きは曖昧であり、このラインより大きければ普通の挙動、このライン小さければ量子的挙動という決まりはありません。

また量子的振る舞いが起こる最大サイズを調べる研究では、肉眼で見えるサイズの物体にも量子的挙動がみられることが示されました。

1マイクログラムの目視可能サイズで「シュレーディンガーの猫」の類似実験に成功!

また量子的挙動の限界サイズを探る研究は、小さな量子世界の法則が大きな日常世界の根底にあることを示しています。

では逆はどうなのでしょうか?

つまり、大きな日常世界で見られる物理法則は、まだ知られていない小さな量子世界の法則発見に役立つことはあるのでしょうか?

そこでMITの研究者たちは「量子爆弾検査」と呼ばれる仕組みを利用することにしました。

量子爆弾検査は二重スリット実験といくつか似た性質を持っていますが、2本の経路のうち一方にはに反応して爆発する爆弾が置かれています。

しかし光の持つ粒子と波の性質のお陰で、物理的に接触しなくても爆弾の存在を検知することが可能になります。

量子レベルで行われる爆弾検査なので量子爆弾検査と言われますが、経路1に置かれるのは爆弾でなくてもかまいません
量子レベルで行われる爆弾検査なので量子爆弾検査と言われますが、経路1に置かれるのは爆弾でなくてもかまいません / Credit:Valeri Frumkin and John W. M. Bush . Misinference of interaction-free measurement from a classical system . Physical Review A (2023)

量子爆弾検査では発射された光子が2本に分割され、統合されたときの模様が調べられます。

二重スリット実験の場合には最終的に検知場所では綺麗な「しま模様」の干渉パターンが得られます。

しかし量子爆弾検査で爆弾が通路1にある場合、検知場所で得られるパターンが変化してしまいます。

今回の実験では少し細工を行い、爆弾がある場合とない場合の区別をつけやすくしました。

具体的には、爆弾がなかった場合には、検出器D1にのみ検出されるようにします。

一方、爆弾がある場合には50%の確率で光子が爆弾に当たり爆発を起こします。

しかし運よくその事態を避けられた場合、50%の確率で検出器D1、50%の確率で検出器D2が反応するように設定しました。

つまり検出器2で光子が検出された場合、爆弾があると判断できます。

しかしそうなると奇妙なことが起こります。

光を通していない場所の爆弾が観測できるというと滅茶苦茶な話に思えますが、実際に機能します
光を通していない場所の爆弾が観測できるというと滅茶苦茶な話に思えますが、実際に機能します / Credit:clip studio . 川勝康弘

通路2を通った光子が検出器D2で検出された場合、光は爆弾と一切なにも相互作用していません。

にもかかわらず、通路1に置いてあった爆弾を検知できたことになるのです。

実験のために発射できる光子が1個だけで、検出も一発勝負だったとすると、その奇妙さが際立つでしょう。

たった1回光子を発射して、それが通路2を通って検出器D2に検出されただけで、光が通らなかったはずの通路1に爆弾があったことが確定するからです。

古典的な物理学の常識では、このようなことはあり得ません。

古典物理の世界では何かが存在すること、あるいは存在しないことを確定させるには光や音などの媒体や計りのような力学的な力を使った観測をすることが必須です。

しかし量子爆弾検査では量子世界の不思議な挙動を利用することで、爆弾に対して文字通り「何も触れず」にその存在を検知できるのです。

多世界解釈的に言えば、爆弾がある場合にはまず、経路1を光子が通って爆発した世界線と経路2を光子が通って爆発しなかった世界線に分岐し、次いで経路2を光子が通った世界線がさらに検出器D1で光子が検出された世界線と検出器D2で光子が検出された世界線に分岐したことになります。

そのため「爆弾が存在する場合のみ通路2を通った光子が検出器2で検知された世界線が存在できる」という解釈が成り立ちます。

ただこの場合も「何も触れず」に爆弾の存在を検知したことになり、古典物理の常識と乖離した結果が起きた世界線となってしまいます。

そこで研究者たちは新たなの解釈として、1927年に物理学者ド・ブロイによって考案されたパイロット波理論に着目しました。

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