シリコンの液滴はパイロット波理論に従って動作する
パイロット波理論では、粒子の量子的挙動は2つの経路を同時に通るような確率的な波ではなく、粒子を空中に導く物理的な「パイロット波」によって決定されるとされています。
量子爆弾検査に当てはめた場合、光子は2つの経路のうち1つしか通れないものの、パイロット波は2つに分割されると考えます。
そしてパイロット波の1つは粒子を経路に沿って運びまずが、もう一方のパイロット波はいわゆる「空波」であり、粒子を伴わずもう一方の経路を進むと考えます。
つまり古典的な挙動をする粒子と量子的な挙動をする波(パイロット波)を個々に考えるわけです。
こうすることで量子系には常に明白な粒子が存在しているとし、量子的な奇妙な結果は主にパイロット波が運ぶと考えます。
またパイロット波は宇宙の裏に潜む「隠れ変数」のように機能するとも考えられています。
この解釈はコペンハーゲン解釈や多世界解釈とも違う第3の解釈です。
一見すると奇妙に思えますが、量子爆弾検査においては、この解釈が妥当性を帯びています。
パイロット波理論では、光は粒子としての光子と波としてのパイロト波に別れており、爆弾を爆発させられるのは粒子としての光子だけであり、波としてのパイロット波は爆弾によって波形が乱されることはあっても、爆発は起こさないとされます。
パイロット波理論による解釈を使うと「何も触れず」爆弾を検知するという異常に思えるものから、粒子を含まないパイロット波(空波)がちゃんと爆弾と相互作用していることになります。
パイロット波理論に基づいた解釈は、量子力学の主流となっているコペンハーゲン解釈や熱心なファンが多い多世界解釈と違いあまり人気がありませんでした。
しかし2005年に行われた研究により、ド・ブロイの量子波が液滴を使った大きな世界の物体で再現できることが判明し、それら全てがパイロット波理論と一致する結果を示しました。
この実験では上下にわずかに振動する液体(シリコン液)のケースが容易されます。
この振動はあまりに弱いため、液体に波を起こすことはできません。
次に液体に対してミリメートルサイズの液滴(同じシリコン液)を垂らすと、表面張力によって液滴が液体表面で跳ね返りを起こして振動し、液体の僅かな振動と共振を起こします。
この共振によって発生した波は、ド・ブロイの量子波と一致した挙動をみせるだけでなく液滴を水平方向に推進する力があります。
後の研究ではパイロット波実験が改良され、二重スリット実験をシリコン液滴で再現することに成功しました。
上の動画では液滴は2つあるどちらかの穴しか通らないものの、波は両方を通過している様子が示されています。
また右側を通過した波の影響で、通貨直後の液滴が一瞬左右にフラフラするようすも見て取れます。
さらに後に行われた研究では、量子トンネリングのような現象も起こせることが判明しました。
そこで今回MITの研究者たちは量子爆弾検査を光子の代りに液滴を使った場合にも、パイロット波理論通りに動くのかを検証することにしました。
調査にあたっては、同様のシリコン液とシリコン液滴が用意され、上の図のように2本の通路と爆弾が設置されました。
もし量子爆弾検査が液滴でも機能する場合、爆弾に接触せずに通り抜けた液滴が爆弾の存在を教えてくれるはずです。
まず爆弾(障害物)が無い状態で液滴の経路を調べると、上の図のように左側に偏った経路をとることがわかりました。
次に爆弾(障害物)がある状態で液滴の経路を調べると、爆弾と物理的に接触しなかった液滴が右側に逸れることが判明します。
(※経路の形的に最終段階で左側に行くように誘導されているにもかかわらず右側に移動します)
つまり右側に逸れる液滴の存在を確認できた場合、爆弾が存在することを意味します。
得られた結果は光子を使った量子爆発検査を再現するものとなります。
液滴は爆弾と物理的に接触していないにもかかわらず、液滴の周囲に展開された波がパイロット波や空波のように爆弾と相互作用して、液滴の動きを左向きから右向きに変えていたのです。
これらの結果から研究者たちは、パイロット波理論が量子の奇妙な世界を解釈する上で無視できないものになると述べています。
物理学の歴史は当たり前だと思っている解釈が変更を繰り返すことで進歩してきました。
液滴の実験で得られたパイロット波に類似するものが量子世界で担う役割を解明することができれば、宇宙法則の理解がまた一歩前進するでしょう。