宿主をメス化させる細菌「ボルバキア」とは?
昆虫の細胞内には細菌が生息している場合があり、その一部には宿主の生殖を内側から操れるものがいます。
その代表格として有名なのが「ボルバキア(Wolbachia)」です。
ボルバキアは昆虫のおよそ40%の種に寄生しているとされ、宿主が産んだ子のうちオスのみを殺す「オス殺し」や、子をすべてメスにしてしまう「メス化」の能力を持っています。
奇妙な細菌なので、初めて聞いたという人が多いかもしれませんが、人気ゲーム「メタルギアソリッド5」の中で重要な役割を持つ細菌として登場していたので、このゲームのシナリオで知ったという人もいるかもしれません。
メタルギアの中でも、ボルバキアは宿主をメス化する性質があると語られていましたが、なぜこの細菌は昆虫の「メス化」という能力を持つようになったのでしょうか?
これは、ボルバキアが宿主の細胞外では生きられないという点に理由があります。
細胞外で生きられないためボルバキアは基本的に感染性を持っておらず、主に宿主の親から子へと世代を越えて伝播しながら生き延びています。
ただし彼らは宿主の「母から子」へは伝播できますが、「父から子」へは伝播できません。
この理由もボルバキアが細胞外では生きられないという点にあります。ここで言う細胞の中とは細胞膜より内側にある核以外の部分「細胞質」のことを指しますが、ボルバキアは細胞質を持つ卵子の中に入り込むことはできますが、細胞質を持たない精子には入り込むことができないのです。
そのため、オスに伝播したボルバキアはそれ以降の世代には伝わることができないため、ただ宿主が死ぬのを細胞内で待つのみとなります。
このような背景から、ボルバキアの一部は自らの繁栄を確実なものとするために、宿主の子を「メス化」させる能力を獲得したと考えられています。
しかし、このようなボルバキアの性質は世代が進むほど寄生された昆虫を、どんどん繁殖に不利な状況へ追いやっていくように思えます。
実際、自然界の中でボルバキアによる宿主のメス化はどれくらいの影響力を持っているのでしょうか?
実のところ、ボルバキアが昆虫をメス化させることは知られていましたが、これはすでに細菌が広まったあとの状況を見ている場合が多く、まだボルバキアの保有率が低い種の中でこの細菌がどの様に広まっていき、宿主のメス化を進めていくのかはよくわかっていませんでした。
そこで今回の研究チームは、まだボルバキアの保有率が少ない石垣島のミナミキチョウを対象にその影響について調査を行ったのです。
すると、ボルバキアの恐るべきメス化能力が発覚したのです。