見知らぬ人を「信じる力」はDNAに刻まれている
人を「信頼」には大きく2つの種類があります。
1つは家族や友人に対する「信頼」で、もう1つは見知らぬ人に対する「信頼」です。
家族や友人に対する信頼は仲間を助けるだけでなく、仲間からの助けを期待できるという点において相互扶助の利益となります。
しかし全く見ず知らずの人間に対する信頼、特に今後の人生においてもう2度とかかわらないかもしれない相手への信頼は、家族や友人に対する信頼とは大きく異なります。
たとえば、見知らぬ人に「必ず返すから、電車代を貸してくれ」と言われた場合、家族や友人に対する信頼が厚い人でも困惑するでしょう。
つまり見知らぬ人々への信頼と個人の社会性の強さとは、ある意味で、異なる概念となります。
また見ず知らずの今後関わる可能性も低い相手への信頼は根拠がなく、電車代の場合にはお金が返ってくるか来ないか(0かマイナスか)というだけの、ギャンブル以下の結果にしかなりません。
心理学を持ち出すまでもなく、「0かマイナスか」という2択で人は「0」を選びます。
つまり見知らぬ人への信頼は、個人の心理的特性(性格)とも、一線を画します。
ですが一部の人々は見知らぬ人々に対する「信じる力」を持ち、この賭けに乗ります。
いったいなぜなのでしょうか?
そこでコペンハーゲン大学をはじめとした国際研究では、この見知らぬ人々に対する「信じる力」が何によって与えられるかを調べることにしました。
調査にあたっては、デンマークの3万3822人の遺伝子が分析され、見知らぬ人を「信じる力」がDNAによって影響を受けているかが調べられました。
するとPLPP4と呼ばれるたった1つの遺伝子の働きの違いが、他人を「信じる力」の6%を説明していることが判明します。
6%というと大した数値ではないかと思うかもしれません。
しかし人間の心の複雑さを考えると、この数値は極めて大きいと言えます。
見知らぬ人を信頼するかどうかの葛藤が起こるとき、人間の脳内では数え切れないプロセスが進行し、しばしば決断の天秤は何度もギリギリのラインを巡って揺れ動きます。
そんなギリギリの決断において6%の追加の重りの存在は、大きな意味を持ちます。
また人間の体格差に大きな影響を与える遺伝子として「FTO」と呼ばれる遺伝子がよく引き合いに出されますが、この遺伝子がもたらす差はわずか0.34%に過ぎません。
身長や体重といった物理的特性よりも遥かに複雑な「信じる力」が、たった1つの遺伝子によって6%も上下しているという結果は、驚異的とも言えるでしょう。
そのため研究者たちはPLPP4が「信頼遺伝子」であると結論しています。
ですが信頼遺伝子(PLPP4)はどうやって脳に「信じる力」を起こさせているのでしょうか?