「ヒトミルクオリゴ糖」が体にいい理由とは?
現在、世界の乳児の約75%は生後6カ月以内に、母乳育児の補助として「乳児用調製粉乳」、いわゆる「粉ミルク」を飲んでいます。
粉ミルクは成長期の乳児に必要な栄養素を与えてくれるものの、現時点で本物の母乳と同じ成分を再現することはできていません。
中でも特に人工生産が難しいとされているのが「ヒトミルクオリゴ糖((Human Milk Oligosaccharide:HMO)」です。
そもそも「糖」と一口に言っても、すべてが同じ作りをしているわけではありません。
最も単純なのはブドウ糖や果糖を代表とする「単糖類」で、これはそれ以上分解されない糖質の最小単位となります。
次いで、単糖類が2つ結合すると「二糖類」となり、砂糖や乳糖などがこれに当たります。
そして単糖類が数個〜10個ほど結合したものが「オリゴ糖」で、ヒトミルクオリゴ糖(以下、HMOと表記)はこの一種です。
単糖類がそれ以上くっつくと「多糖類」になります。
言うまでもなく、単糖類が多く結びついたものほど、構造が複雑で人工的に作り出すのが難しくなります。
その一方で構造が複雑な糖類ほど、体への消化・吸収がゆっくりになるため、健康価は高くなります。
(お菓子やジュースに多量に含まれるブドウ糖や果糖は消化・吸収が速いので、急激に血糖値を上げてしまいます)
ヒトの母乳にのみ高濃度で含まれているHMOも、乳児の健康にとって非常に重要です。
その最大の理由はHMOが持つ「プレバイオティクス効果」にあります。
プレバイオティクス(prebiotics)とは、オリゴ糖や食物繊維のような難消化性のものを指します。
難消化性のものは食べても胃や小腸で分解・吸収されず、そのまま大腸まで運ばれるので、大腸に共生する微生物の餌となり、腸内環境を整える整腸効果、食後の血糖値の上昇抑制、肥満予防などの機能を発揮してくれます。
乳児においてもHMOはプレバイオティクス効果を発揮して、有益な腸内細菌の成長を促進し、危険な腸内感染症のリスクを低減するのに役立っています。
しかしながら、HMOの人工生産は不可能ではないものの大量生産は困難であり、産業的な利用はできない状態です。
現時点では大腸菌を使ったHMOの生産方法が存在していますが、生産できる量が少ない上に、毒性のある副産物も生産されてしまい、これを除去するのに多大な費用がかかるのです。
そのため、HMOを取り入れた粉ミルクはほとんど存在しておらず、あったとしてもかなりの高級品になってしまいます。
そこで研究チームは、まったく新しい方法でHMOを人工生産する技術の開発を試みました。
その主役に抜擢されたのは「植物」です。
一体どうやって植物にHMOを作らせるのでしょうか?