【ケンブリッジ大学】卵母細胞が体内で何十年も保存できる仕組みを解明!
【ケンブリッジ大学】卵母細胞が体内で何十年も保存できる仕組みを解明! / Credit:clip studio . 川勝康弘
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不老不死のカギを握る「卵母細胞」女性の体内で50年も元気な理由を解明! (2/2)

2024.07.09 Tuesday

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長生き細胞のタンパク質も長生きだった

長生きな卵母細胞のタンパク質も長生きなのか、それとも他の細胞のように数カ月で更新され続けているのか?

謎を解明すべく、研究者たちはメスマウスに炭素の放射性同位体が含まれたエサを与えました。

この放射性同位体は炭素13と呼ばれ通常の炭素と比べて中性子が多いため重くなっていますが、通常の炭素と同様に体内に取り込まれます。

子宮の中にいる間に重い炭素(炭素13)のエサを与え、生まれてきてからは普通の炭素(炭素12)を含むエサを与えます。こうすることで卵母細胞内部に残るタンパク質の量が判ります
子宮の中にいる間に重い炭素(炭素13)のエサを与え、生まれてきてからは普通の炭素(炭素12)を含むエサを与えます。こうすることで卵母細胞内部に残るタンパク質の量が判ります / Credit:clip studio . 川勝康弘

このときメスマウスが妊娠していると、胎児の体内にある卵母細胞にも重たい炭素が取り込まれます。

赤ちゃんマウスが誕生すると、研究者たちはすぐにエサをより一般的な軽い炭素を含むものに切り替えました。

もし赤ちゃんマウスの体内の卵母細胞がずっと同じタンパク質を使い続けているならば、卵母細胞の中のタンパク質にも重い炭素が残り続けるはずです。

一方、卵母細胞のタンパク質が通常の細胞のように素早く更新され続けているなら、卵母細胞の中から重い炭素はすぐに失われ、軽い炭素に置き換わるでしょう。

研究者たちは赤ちゃんマウスの成長を見守り、最も子供を産みやすい生後8週齢の卵母細胞を取り出して調べてみました。

すると卵母細胞内のタンパク質の約10%が、子宮内にいるときに生成されたものを使い続けていることが判明しました。

また同じ時期に発表された別の研究では、生後11カ月にわたってこの10%のタンパク質が維持されていることが示されました。

10%というと少なく感じるかもしれませんが、通常の細胞に比べるとこの数値は際立って高いと言えます。

また、10%のタンパク質が残り続けているという事実をもとに計算を行うと、卵母細胞内部ではタンパク質の分解と生産のサイクルが通常の細胞よりも極めて遅いという結果が得られました。

活発な細胞の活動は老化を引き起こします。そのため卵母細胞では活動レベルを落としてタンパク質の更新を控えています。
活発な細胞の活動は老化を引き起こします。そのため卵母細胞では活動レベルを落としてタンパク質の更新を控えています。 / Credit:clip studio . 川勝康弘

このようなタンパク質の安定性は、卵母細胞を長期保存する上で大きな利点となります。

さらに、一部のタンパク質は他のタンパク質よりも長く残りやすいことも明らかになりました。

例えば卵子表面にある精子が侵入するのを補助するタンパク質は、長期保存されたままでした。

ただ、卵母細胞であっても加齢の影響から完全に逃れることはできません。

研究者たちは「卵巣から長生きのタンパク質が徐々に失われることは、ある年齢を超えると生殖能力が低下する理由を説明するのに役立つだろう」と述べています。

長生きのタンパク質は食品などに含まれる保存料のような役割を果たしているため、それが失われると細胞の老化が一気に進む可能性があるからです。

加えて研究では、若いころの卵母細胞にはミトコンドリアの活性を抑える仕組みが強く働いていることが示されました。

ミトコンドリアは酸素呼吸によってエネルギーを生み出す一方で、副産物として活性酸素種(高エネルギー分子)を作り出し、これらは細胞やDNAの損傷原因となります。

しかし加齢とともに、卵母細胞のミトコンドリアの活性を抑える仕組みが弱くなり、卵母細胞で活発な酸素呼吸が始まることが示されました。

再び食品で例えるならば、ミトコンドリアの活性を抑える仕組みは食品のパッケージに入っている酸素吸収剤や湿気吸収剤の役割を果たしていると言えるでしょう。

そのため、研究者たちは卵母細胞内部に残っている長寿命のタンパク質の量やミトコンドリアの活性レベルを調べることで、卵母細胞の保存状態を知ることができると述べています。

もし保存状態の情報をもとに卵母細胞を選別できるようになれば、不妊治療の効率を大幅に向上させられるでしょう。

また卵母細胞の長寿の仕組みを上手く通常の細胞に取り入れられることができれば、人類の寿命を大幅にのばせるかもしれません。

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