ウサギ一羽に1千万円以上の価値がついた明治時代
日本におけるウサギの飼育は、戦国時代に貿易にきたオランダ人がペットとして飼育するようになったのが由来であるとされています。
やがて江戸時代に入ると、ウサギの飼育はある程度広まっていきました。
しかしウサギは高価だったこともあり、飼育していたのはもっぱら裕福な商人だったのです。
なおその時飼育されていたのはアナウサギを改良したウサギであり、現在世界中で広く飼われているカイウサギの先祖です。
日本の里山には当時からノウサギが生息していたものの、ノウサギがペットとして飼われることはありませんでした。
やがて明治時代に入り文明開化の流れが進むと、外国文化が流行したこともあり、ウサギブームが巻き起こりました。
特にまだら模様のウサギが人気を博したとのことであり、オスは15両(現在の価値で30万円、1両2万円で換算)、メスは60両(現在の価値で120万円)、妊娠したウサギは80両(現在の価値で160万円)の価格で取引されていました。
なお現在のペットショップでのウサギの価格は雑種が5000〜1万円、純血種が3万~10万円ほどであり、いかに当時ウサギが高価なものであったのかが窺えます。
また中には600円(現在の価値で1200万円)の価値がついたウサギもあり、この件は新聞で大々的に取り上げられました。
※同時代でありながら両と円の2つの単位が混在しているのは1871年(明治4年)に両から円の切り替えが行われたためであり、その時の切り替え相場は1両=1円でした。
このようなウサギブームの中では悪徳業者も増えていき、白いウサギに塗料を塗ってオレンジ色にして売るものなどが現れたりしました。
また中にはウサギの売買によるトラブルによって、命を落としてしまう人も出てきたのです。
当時の新聞には、「自分が飼っていたウサギを売ろうと思ったが父親に「ウサギの値段が安すぎる」と反対され、その直後にウサギが突然死したため親子喧嘩になり、父親を庭に突飛ばしたら当たり所が悪くてそのまま死んでしまった」という事件が紹介されています。
さらには「イギリス人が輸入した耳の長さ一尺二寸(36センチメートル)浅黄さらさ毛にして目方二貫七百匁(10キログラム)のウサギを、自分の娘を身売りして種銭を作ってまで買おうとしたものがいた」という記事もあり、ウサギの売買で一儲けするために人倫に反する行いをしたものが決して少なくはなかったことが窺えます。
そのような風潮に対して世間はかなり批判的であり、新聞にて「ウサギの値段の高騰は悪い商人が好事家を騙して暴利を貪っているものだ」という声が挙がりさえしました。
政府もそれを受けてウサギ売買の取り締まりを行おうとしたものの、華族から一般庶民まで揃いも揃ってウサギの飼育と売買に熱中していたこともあり、取り締まりにあまり効果は見られなかったのです。