有人火星探査中、60%以上の薬の有効期限が切れる
地球から火星への道のりはかなり長く、片道の移動だけで約8カ月以上必要だと想定されています。
今回の研究では、ISSに常備されている医薬品が火星ミッションでも必要になると想定し、それらの有効期限と火星ミッションを達成するのに必要な年月を比べました。
その結果、ISSに備えられていて分析できた91種類の医薬品のうち、特定の鎮痛剤を含む54種類の有効期限が36カ月(3年)以下であると判明しました。
そのうち、アナフィラキシー治療薬1種類、抗生物質2種類、抗精神病薬1種類を含む14種類の薬剤は24カ月(2年)以内に有効期限が切れてしまいます。
そして研究チームによると、「最も楽観的な試算では、火星ミッションが終了する前に60%の薬が期限切れになり、最悪なシナリオを想定した場合では98%が期限切れになる」という。
重要な火星ミッションの最中に、効果の薄くなった薬を服用することや、期限切れの薬が原因で別の病気を発症してしまうことも避けたいものです。
このため、有人火星探査では最大の障害の1つが、薬の有効期限になると考えられるのです。
映画オデッセイでは、主人公が火星でじゃがいもを育てて食料問題に対処するシーンが描かれます。
酸素や水がないというのも大きな問題ですが、これらは単純な元素であるため、獲得するための方法や技術は様々なものが考案されています。
居住スペースについても渓谷や洞窟の利用などが提案されています。
実現性についてはまだ課題は多いでしょうが、これらの問題には解決策が示されています。
ただ、薬に関しては非常に種類が膨大であり、これを合成するためには専門の施設が必要で、また材料に様々な化合物が必要になります。
この課題に対処するには、十分な量の薬を持っていくしか方法はありませんが、その場合「医薬品の有効期限を延長する方法」を検討しなければなりません。
この点、バックランド氏は、「有効期限の長い薬を作るのに技術的な限界はないだろうし、現在の薬は、既に当局が定めた期限よりも長く保存できるかもしれない」と明るい見通しを語っています。
とはいえ、放射線などが飛び交う過酷な宇宙環境では、医薬品の効力が想定より早く低下する恐れもあります。
いずれにせよ将来的に火星に拠点を築くという状況を考えた場合、最も現地調達が困難なものの1つが薬になるのは確かでしょう。
現在、有人火星探査に向けて様々な研究が進んでいますが、こうした論文が今発表されるということは医薬品の有効期限は意外な盲点になってしまっているかもしれません。