ASDの脳内では「興奮」と「抑制」のバランスが崩れている?
私たちは、社会的な状況を認識したり、集中力を維持したりするために、脳が情報を適切に処理している必要があります。
この情報処理の鍵を握るのが、神経細胞が互いに情報交換する際の「興奮(アクセル)」と「抑制(ブレーキ)」のバランスです。
専門家たちは長年、自閉スペクトラム症(ASD)の根本的な原因が、この興奮と抑制のバランス不均衡にあるのではないかと考えてきました。
そこで注目されていたのがグルタミン酸です。脳の神経細胞に「発火せよ」という信号を送り、神経伝達の最も主要な「アクセル」役を果たすのが、グルタミン酸という神経伝達物質です。ASDが抱える問題の背景には、このグルタミン酸の活動システムに不均衡があるためではないか? という仮説が有力視されていたのです。
ただ、それを裏付ける具体的な分子レベルの証拠は不足していました。
では、この仮説が事実だとすると、このバランスの不均衡はどういうメカニズムで起きているのでしょうか?
イェール大学医学部の研究チームは、この疑問に答えるために、16名のASDの成人と、同数の定型発達の成人を対象に、最先端の画像診断技術を組み合わせた実験を行いました。
彼らが用いたのは、脳の構造を見るMRI(磁気共鳴画像法)と、脳が分子レベルでどのように働いているかを調べるPETスキャン(陽電子放出断層撮影)です。 特にPETスキャンは、グルタミン酸が作用するシステムの「分子地図」を精密に描くのに非常に強力なツールとして機能しました。
そして、この分子地図を詳しく見てみると、決定的な違いが明らかになりました。
ASDの参加者の脳全体において、グルタミン酸を受け取る特定の受容体の数が少ないことが判明したのです。 これは代謝型グルタミン酸受容体5型(mGlu5受容体)と呼ばれるもので、神経細胞が興奮性の信号をキャッチするために非常に重要な役割を果たしています。
ではmGlu5というグルタミン酸受容体が少ないと、具体的にどのような問題が起きると考えられるのでしょうか?
























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