進化の大きな謎:なぜ私たちは「賢い脳」を持てたのか
人類の脳は、霊長類の中でも群を抜いて大きなサイズを誇っています。 しかし、脳は全身のエネルギーの大部分を消費する、極めて「コストが高い」臓器です。 なぜ、私たちはこれほど激しいエネルギー要求を伴う大きな脳を、進化の過程で維持し、さらに成長させることができたのでしょうか。
この進化上の大きな疑問に取り組むにあたり、ノースウェスタン大学の研究チームが注目したのが、私たちのお腹の中に住む数十兆の微生物、すなわち腸内細菌叢(Gut Microbiome)です。
アマート氏らの研究室では以前、すでに重要な発見をしていました。
大きな脳を持つ霊長類の腸内細菌は、宿主に移植された際に、小さな脳を持つ霊長類の腸内細菌よりも、より多くの代謝エネルギーを体内で生成することが示されていたのです。
これは、高いエネルギーコストを要する大きな脳を発達させ、機能させるための条件の一つになりうると考えられます。
しかし、腸内細菌は単にエネルギー供給源であるだけなのでしょうか。 それとも、私たちの脳の働き方そのものに、進化的な影響を与えているのでしょうか。 これが、今回の研究の核心的な疑問点となりました。
腸内細菌移植で脳が変化する
この疑問を検証するため、研究者たちはあらかじめ腸内細菌を排除した無菌マウスに、霊長類の腸内細菌を移植するという実験を行いました。
実験で腸内細菌の移植元として用いられたのはサイズの異なる脳を持つ霊長類で、 一つは大きな脳を持つ霊長類であるヒトとリスザル(Squirrel Monkey)、 もう一つは、小さな脳を持つ霊長類であるマカク(Macaque)です。
目標は、これらの腸内細菌の違いが、単なるエネルギー供給を超えて、脳そのものの働きを変えるかどうかを確認することでした。
腸内細菌を移植した後、わずか8週間で、マウスの脳に劇的な変化が現れました。
大きな脳を持つ霊長類の腸内細菌を受け取ったマウスの脳は、小さな脳を持つ霊長類の腸内細菌を持つマウスとは明確に異なる働きを示し始めたのです。
具体的に何が変わったのでしょうか?
大きな脳グループのマウスの脳では、エネルギー生成に関連する遺伝子の発現が増加していました。 これは、脳が活発に働くためのエネルギー生産能力が高まったことを示唆します。
さらに、シナプス可塑性(Synaptic Plasticity)に関連する遺伝子発現も増加していました。 シナプス可塑性とは、脳の神経細胞同士のつながりが、学習や記憶に応じて変化する物理的なプロセスのことです。
これは、知的な学習能力の土台として重要なものです。
腸内細菌を変えただけで、マウスの脳は、より高いエネルギー消費と、より活発な学習能力を可能にする方向へ遺伝子の働きが切り替わった可能性があるのです。
























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