素潜り文化が生んだ人類の海適応進化

韓国・済州島の海女さんは、女性だけで構成される伝統的な素潜り漁師集団です。
海女さんたちは平均年齢70歳前後になっても、一年中集団で海にもぐり、アワビやウニ、海藻などを採取します。
典型的な潜水は水深10m以内・時間30秒ほどですが、1日4~5時間ものあいだ繰り返し海にもぐる過酷な作業です。
かつてこの漁は島の経済を支えましたが、若い女性が継がなくなり、今の海女さんが最後の世代になるとも言われています。
高齢者がこうした厳しい水作業に従事しているだけでなく、妊娠中でも潜水を続ける人がいる点が特に注目されています。
現地を調査した研究者によれば、「80歳を超える女性が船が完全に止まる前に海へ飛び込む姿を見て、本当に驚いた」とのことです。
こうした極限的な生活から、海女さんには特別な生理的適応があるのではと考えられてきました。
その適応が訓練によるものか、あるいは遺伝的変異によるものなのかを探ることが本研究の大きな目的でした。
高地適応の例としては、チベットやアンデスの高地民族が低酸素に順応し、北欧やアジア北部の先住民が寒冷地に適応したことが知られています。
水中への適応では、インドネシアの海洋民バジャウ族が大きな脾臓を持つ遺伝的変異を示した研究(2018年発表)が有名です。
バジャウの女性たちも妊娠中に素潜り漁を行うため、こうした生活習慣が強力な進化圧として働く可能性が議論されています。
研究チームは、同様に素潜り漁の伝統を持つ済州島の海女さんにも類似した進化が起きているのではないかと着目しました。