妊婦が潜ったから人類は進化した?

以上の成果は、済州島の海女さんが長年にわたる訓練によって卓越した潜水生理を身につけただけでなく、何世代にもわたる自然選択の影響によって一部遺伝的にも適応が進んでいる可能性を示すものです。
特に妊娠中に潜水するという特殊な慣習が、進化的淘汰圧となりうる点は非常に注目されます。
もし妊婦が繰り返し息を止めて潜ることで高血圧症や低体温症を引き起こしやすいのであれば、生存と出産に有利な遺伝的変異が子孫へ伝わりやすかったとも考えられます。
実際、済州島は脳卒中による死亡率が韓国でも低い部類にあるという報告があり、拡張期血圧の上昇を抑える変異が島民全体の健康に寄与している可能性が指摘されています。
本研究は、伝統的な潜水漁を生業とする集団の重要性を改めて示しました。
海女さんたちの身体に刻まれた“進化の足跡”を調べることで、人類の生理適応の仕組みについて新たな発見が得られるかもしれません。
実際、今回特定された血圧コントロールに関わる遺伝変異の研究は、高血圧症や妊娠高血圧(子癇前症)といった疾患の予防・治療に役立つ可能性があります。
一方で、長年にわたり培われてきた済州島の海女文化は消滅の危機に瀕しています。
その伝統を未来に伝えていくことは文化的に意義深いだけでなく、科学的にも貴重な「生きた人類進化の資料」を守ることにつながるでしょう。
海女さんたちが体現する人間の適応力には、まだ私たちの知らない秘密が数多く残されているのではないでしょうか。
海女さんがいなくなってしまうとその進化は消えてしまうのでしょうか…。