『失敗した超新星』が生んだ宇宙の凍った花火が850年間も消えなかった理由
『失敗した超新星』が生んだ宇宙の凍った花火が850年間も消えなかった理由 / Credit:A Wind-driven Origin for the Firework Morphology of the Supernova Remnant Pa 30
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『失敗した超新星』が生んだ宇宙の凍った花火が850年間も消えなかった理由

2026.01.08 17:00:47 Thursday

宇宙に、まるで線香花火が凍りついたような奇妙な天体があります。

Pa30と呼ばれる超新星残骸で、1181年に日本や中国で記録された「客星(急に現れて数か月だけ光る星)」の残骸候補のひとつと考えられています。

中心から細い筋が四方八方に伸びる「花火のような形」が特徴で、もし1181年の客星と同じ天体だとすれば、爆発から約850年たった今もその姿を保っていることになります。

しかしアメリカのシラキュース大学(Syracuse Univ.)などの研究機関で行われた研究によって、この筋は爆発で飛び散った破片そのものではなく、爆発後に生き残った白色矮星(太陽の燃えかすのような高密度の星)から吹き出した風によって、重たいものと軽いものが押し合う境目で筋が伸びた結果である可能性が示されました。

飛び散った「花火の火の子」の先端に思える筋部分は、実は、コーヒーに垂らしたミルクの中を突き破って伸ばしていく筋のように、あとから吹いた濃い風が周囲の薄いガスを押しのけて形作った“風の指先”だったのです。

しかし、ふつうなら混ざって消えてしまいそうな筋が、なぜ850年を経てもほとんど崩れずに残り続けられたのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年12月23日に『The Astrophysical Journal Letters』にて発表されました。

A Wind-driven Origin for the Firework Morphology of the Supernova Remnant Pa 30 https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ae267d

宇宙に凍った線香花火──Pa30という奇妙な残骸

宇宙に凍った線香花火──Pa30という奇妙な残骸
宇宙に凍った線香花火──Pa30という奇妙な残骸 / Credit:Canva

夜空の花火を見ていると、その一瞬だけ軌跡が残り、すぐに煙に変わって消えていきます。

もしあの光の筋が、空一面に広がるほど巨大なスケールで、そのまま千年も凍りついたように残っていたらどうでしょうか。

Pa30は、まさにそんな「宇宙版の花火写真」のような天体です。

多くの超新星残骸は、あちこちがモコモコと膨らんだ雲のような形をしていますが、Pa30では中心から伸びる細い筋が目立ち、真ん中には不自然なほど何もない空洞が広がっています。

従来、超新星残骸の形は多くの場合、多くは「爆発で飛び出したガスの分布がそのまま固まったもの」として理解されてきました。

実際、それは多くの残骸でうまくいく説明でした。

しかしPa30のように、ほとんど一直線に近い細い筋がたくさん並び、その筋が850年たっても折れずに残っている姿は、この単純なイメージではなかなか説明できません。

ふつうなら、ガス同士がぶつかり合い、境目に渦が生まれ、時間とともに混ざり合って、きれいな筋はすぐにちぎれてしまうはずだと考えられるからです。

コラム:なぜ「失敗した超新星爆発」と言われるのか?

「失敗した超新星爆発」という言葉を聞くと、ちょっとドキッとしますが、星が「しくじった」という意味ではありません。ここでの「失敗」とは、教科書的な“完全な超新星爆発”の想定から見ると、中途半端な状態で終わってしまったという、専門家側の視点を表したニックネームです。典型的なIa型超新星では、白色矮星(太陽くらいの星の燃えかす)が限界近くまで重くなり、星全体で核反応が一気に暴走して「星そのものが粉々になる」と考えられています。

つまり、爆発のあとに白色矮星本体は残らず、ガスとして宇宙空間にばらまかれる、というのが「成功した」超新星爆発のイメージです。ところが最近見つかってきた「Iax型」と呼ばれるグループでは、どうも様子が違います。爆発の明るさが弱く、飛び散ったガスの量も少なく、そのうえ中心に白色矮星らしき“生き残り”が残っていると考えられる例が出てきました。星全体が吹き飛ばされるどころか、「かなり傷ついたけれど、芯の部分は生き残ってしまった」という状態なのです。

このため研究者たちは、理論モデルの中で「完全な爆轟(さいごまで燃え切る爆発)に到達せず、途中でしぼんでしまった超新星」として扱い、「failed supernova(失敗した超新星)」というラベルを使うようになりました。つまり、「超新星爆発としては最後までやり切らず、星を完全には壊せなかったタイプ」という意味合いです。

面白いのは、その“失敗”が新しい天体現象を生むきっかけになっていることです。Pa30のように、生き残った白色矮星がその後も速い風を吹き出し、周囲のガスに筋を刻んでいくケースでは、普通の超新星残骸では見られない「宇宙の花火」のような姿が残ります。「失敗した超新星爆発」とは、単なる評価ではなく、そうした不完全な爆発から生まれる多様な“その後”を示す、便利なあだ名のようなものと言えるでしょう。

そこで研究者たちは、爆発の瞬間ではなく「その後に吹いた風」と「風がぶつかる相手」の条件に注目し、「どんな条件なら筋が千年ほどけずに残るのか」を流体の不安定性(ガスの境目が乱れる性質)という観点から調べることにしました。

もしその条件が見つかれば、Pa30の花火だけでなく、他の奇妙な残骸の形も説明できるかもしれません。

本当に、宇宙にそんな「花火保存のレシピ」が存在するのでしょうか。

次ページ最初の1〜10年で筋が決まり、850年残るというシナリオ

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