チクシュルーブ衝突体はどこから飛んできたのか?
チクシュルーブ衝突体は約6600万年前の白亜紀末期に地球へと落下しました。
当時地球を支配していた恐竜たちを含め、実に75%もの動植物種が絶滅に追いやられています。
チクシュルーブ衝突体の最初の手がかりは1970年代後半に見つかりました。
ある研究チームが白亜紀末の岩石から高濃度のイリジウムを発見したのです。
イリジウムは地球の岩石では非常に珍しいですが、宇宙を漂う小惑星にはごく一般的な元素として含まれています。
この発見から「恐竜時代は隕石の衝突によって終焉した」との説が有力視されるようになりました。
さらにその後の調査で、ユカタン半島に直径約160キロの巨大なクレーターが見つかったことで、隕石落下説は確実なものとなります。
しかし一方で、科学者たちは「チクシュルーブ衝突体がどこから飛んできたものなのか」を解明できずにいました。
これまでのところ、科学者たちの見解は「太陽系内のどこかから飛んできた小惑星」という点で大方一致しています。
特に火星と木星の間に広がる小惑星帯(アステロイドベルト)に起源があるのではないかと考えられてきました。
地球に飛来する小惑星の大半は、このアステロイドベルトからのものと判明しているからです。
また2021年には米ハーバード大学(HU)が「チクシュルーブ衝突体は小惑星ではなく、彗星の可能性もある」との説を提唱していました(Scientific Reports, 2021)。
この説によると、太陽系の外側を取り巻いているオールトの雲(※)にあった彗星が、木星の強力な重力に引っ張られて「ピンボールマシンのように」地球の方まで飛ばされたという。
(※ オールトの雲は、太陽系の外側に広がるとされる理論上の天体群で、1兆個の氷の破片が球殻状に集まった状態と考えられています。
太陽からオールトの雲までの距離は、太陽から地球までの距離の少なくとも2000倍と推定されています)
しかしこれも仮説の段階で止まっており、推測の域を出ていません。
そこで研究チームは約6600万年前の白亜紀末の地層に見られる化学的痕跡を調べることで、チクシュルーブ衝突体の起源を明らかにしようと考えました。