隕石は「木星軌道の外」から飛んできた!
今回、チームが注目したのは「ルテニウム」という元素です。
ルテニウムはイリジウムと同じように、地球の岩石では非常に珍しいですが、小惑星では遙かに一般的に含まれています。
加えて、ルテニウムの同位体(※)を測定することで、小惑星の種類を大まかに識別することが可能です。
(※ 同位体とは、原子番号が同じ元素の中で中性子の数が異なるもののこと。例えば、自然界に存在する炭素には、炭素12、炭素13、炭素14の3つの同位体が存在します)
チームはチクシュルーブ衝突体が落下した時代の世界各地の地層から岩石サンプルを採取しました。
さらにチームはこれと別に、過去5億4100万年の間に起きた他の5つの小惑星衝突に関する岩石サンプルも調べています。
データ分析の結果、過去5億年間に地球に衝突した隕石はすべて「S型小惑星」であることが特定されました。
S型小惑星とはケイ酸塩を多く含む岩石で、主に火星と木星の間の小惑星帯(アステロイドベルト)に存在するものを指します。
ところがチクシュルーブ衝突体は例外でした。
ルテニウム同位体を調べたところ、チクシュルーブ衝突体は「炭素質コンドライト(C-型コンドライト)」と呼ばれるタイプの隕石であることがわかったのです。
炭素質コンドライトは原則として、木星軌道の外側で作られる隕石であることがわかっています。
炭素質コンドライトは揮発性物質や水を含む鉱物を多く含んでおり、太陽系の形成初期の情報を多く保持しています。
木星軌道の外側は、温度が低く、揮発性物質が凝縮しやすい環境であるため、炭素質コンドライトが形成されるのに適していたと考えられるのです。
また過去に地球上で発見された隕石全体に占める炭素質コンドライトの割合は極めて少なく、数十例ほどしか知られていません。
この結果から、恐竜時代を終焉させたチクシュルーブ衝突体は木星の外側に起源があることが明らかになりました。
しかし、そんなに遠方にある小惑星がどうやって地球の方向へ飛んできたのでしょうか。
現時点の見解では、他の小惑星との衝突によって軌道が変わり、木星の重力に捉えられて地球まで飛ばされたと見るのが有力です。
ただチクシュルーブ衝突体が形成された正確な場所も踏まえて、それらの問題はまだ解き明かされていません。
チームは岩石サンプルの化学解析をさらに推し進めることで、その謎を解明できると期待しています。
しかし木星より遠方から飛んできた小惑星が地球にピンポイントで直撃するなんて、なんという不運でしょうか。
いや、隕石の衝突により恐竜時代が終わって、哺乳類の時代が始まったことを考えれば、私たち人間が台頭する上でチクシュルーブ衝突体の落下は必要だったとも言えます。
チクシュルーブ衝突体の軌道がほんのちょっとでもズレていれば、私たち人間の誕生はなかったのかもしれません。