脳細胞(星状細胞)と脳幹細胞の差は意外な部分にあった
なぜ脳室下帯にある星状細胞(アストロサイト)だけが幹細胞としての働きを担っているのか?
脳の各所に大量する他の星状細胞は幹細胞にはなれないのか?
謎を解くために、ドイツがん研究センターはマウスの脳室下帯から、通常の星状細胞と脳幹細胞としての機能を持つ星状細胞の両方を取り出し、どんな遺伝子が活性化しているか、またどんな遺伝子にロックがかかっているかを調べました。
私たちの細胞内部の遺伝子は、その全てが常に全力で働いているわけではありません。
皮膚や胃、脳、肝臓など異なる種類の細胞では、異なる遺伝子が活性化し、また逆に特定の遺伝子が勝手に動かないようにロックする仕組みがあります。
あらゆる細胞の核内には全ての設計図を収めたゲノムが収められていますが、皮膚や胃として機能するには、必要な設計図だけを使う必要があるのです。
もしこの仕組みが働かなくなると、皮膚で胃酸が生成されたり、脳に毛髪が生えてしまうことになるでしょう。
この遺伝子のロックにおいて重要な役割を果たしているのが「メチル化」と呼ばれる過程です。
特定の遺伝子にメチル基を持ったタグ分子が付着することで「この遺伝子はこの細胞では使わない」と宣言することができるのです。
では、脳室下帯から取り出した普通の星状細胞と幹細胞としての機能を持つ星状細胞は何が違ったのでしょうか?
研究者たちが2種類の星状細胞を調べたところ、遺伝子の活性パターンはほとんど変わらなかったものの、メチル化パターンが大きく異なり、通常の星状細胞ではロックがかけられている特定の遺伝子が、幹細胞としての機能を持つ星状細胞ではロック解除の状態にあることが判明しました。
逆を言えば、普通の星状細胞は特定の遺伝子にロックをかけることで、幹細胞としての機能を勝手に持たないようにしていたのです。
脳のどこにでもある普通の星状細胞が全て幹細胞になってしまうと、脳のあちこちで新たな脳細胞が生まれ、脳回路に恐ろしい混乱が起こってしまうでしょう。
コンピューターの基盤でたとえるならば、マザーボードの上に無秩序に新規回路が形成されるのと同じことが起こるはずです。
正常な脳機能を守る上で、このロックは重要な役割を果たしているのです。
しかしここで研究者たちは、あえてこのロック機能を外すことにしました。