都会の夜は「体内時計」を狂わせる?
夜間の人工照明は、利便性と安全性を提供する都市生活のシンボルとなっています。
特に大都会では何千もの電灯が夜を通して煌々と光り輝き、真昼さながらの明るさを作り出しています。
人工照明は確かに便利である反面、夜間に強い光を浴びすぎると、1日24時間周期で繰り返す「概日リズム(体内時計)」が狂ってしまうことが以前から指摘されてきました。
概日リズムの乱れは肥満や不安症、うつ病、さらには心臓病の発症リスクを高める原因です。
特に概日リズムの乱れは最初に睡眠のサイクルを乱すことで、脳の神経変性(細胞が徐々に失われること)を引き起こし、次第に認知機能の低下を招くのです。
それが生活習慣の乱れにつながり、肥満やうつ病の発症に関係していると考えられています。
これは「寝るときには電気も消して、カーテンも閉めているから問題ないだろう」という話ではありません。
例えば、寝る前にスマホやパソコンのブルーライトを浴びることが睡眠の質を低下させるように、本来は外が暗くなっているはずの時間帯に明るい都会の街を歩いたりすることが、脳の覚醒を促して、その後の睡眠サイクルまでも狂わしてしまうからです。
概日リズムは1日を通して地続きにつながっているので、寝るタイミングで急に部屋を暗くしたからといって、正常な睡眠サイクルに戻るわけではありません。
夜が明るすぎると「アルツハイマー病」になりやすいのか?
そして研究チームが関心を寄せているのは「夜間の過度な明るさがアルツハイマー病の発症につながっているのか?」という問題でした。
アルツハイマー病は脳の神経変性疾患の一つであり、記憶力や思考能力がゆっくりと失われ、最終的には日常生活の単純な作業も自力ではできなくなる病気です。
夜間の過度な明るさが概日リズムの乱れを招き、概日リズムの乱れが脳の神経変性を引き起こすのであれば、アルツハイマー病の発症リスクが高くなっても不思議ではありません。
実際に中国とイタリアで行われた先行研究では、夜間に高レベルの屋外光にさらされていた人口集団は認知症の有病率が有意に高いことが示されていました。
ただ夜間の屋外光とアルツハイマー病との関係性についてはまだ明らかになっていません。
そこでチームはこの問題を新たに検証することにしました。