間一髪!心臓を取り出す直前に目を覚ます
フーバーさんの体は臓器摘出のため手術室に運ばれていきました。
しかしその際に付き添っていた姉のドナ・ローラーさんによると、弟が少し目を開けて辺りを見回したような気がしたといいます。
そのことを医師に伝えると「体の一時的な反射だろう」として片付けられたという。
もしかしたらフーバーさんはこの時にはすでに目覚めかけていたのかもしれません。
その後、フーバーさんは心臓が移植に適しているかどうかを評価するため、心臓カテーテル検査を受けました。
これは細いプラスチック製の管(カテーテル)を動脈ないしは静脈内に挿入し、血管を通して心臓に到達させ、心臓内の圧力を測定したり、冠動脈(心臓に血液を運んで酸素や栄養を与える血管)や心臓の血行状態を調べるものです。
ところがフーバーさんはこのカテーテル検査を受けていた最中に、唐突に目を覚ましたのです。
処置をしていた医療スタッフによると「彼は突然目を覚まして、ベッドの上でバタバタと動き回り、涙を流していました」と話します。
これはもう反射で片付けられるものではありませんでした。
医師チームは直ちに心臓の摘出手術を中止し、フーバーさんを治療室へと戻しています。
ただこの出来事はフーバーさんとその家族だけではなく、医療スタッフにも大変なショックを与えたようで、そのうちの一人は「もうダメだ、私は関わりたくない」とかなりの動揺を示したといいます。
それもそのはず、自分たちが今まさにフーバーさんの心臓を摘出しようとしていたわけですから、一歩間違えば、患者の命を奪う大惨事となっていたでしょう。
医師チームはまだ、フーバーさんがなぜ脳死判定の段階では覚醒せず、手術の直前になって目を覚ましたのか、その原因を特定できていません。
この事故は現在もなお、アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)などの研究機関によって調査が続けられている段階ですが、もし脳死判定に何も不備がなかったとするなら、この事故は脳死の判定基準を今一度、見直す必要があることを示唆しています。
フーバーさんが目を覚ました原因が特定できれば、脳死の判定基準に改良を加えることとなるかもしれません。
ただし、フーバーさんのように脳死と診断された後に目を覚ますケースは極めて稀であり、ほとんど過去に前例がありません。
また脳死の判定基準をあまりに厳格に設定しすぎると、死亡確認〜臓器摘出まで時間がかかってしまい、今度は臓器提供を待機している大勢の患者さんにも悪影響を及ぼす可能性があります。
それらを踏まえて、脳死の判定基準の見直しには適切なバランスが重要となるでしょう。
フーバーさんは現在、薬物の過剰摂取の後遺症として、言語や記憶、運動能力に支障が出ていますが、2023年5月には姉のドナさんの結婚式にも参列しており、継続して治療に専念しているそうです。