量子電池が「お得」な理由
調査にあたってはまず、量子電池と機械の間に量子的な相関関係を持つ量子ビットが設置されました。
簡単に言えば、量子もつれを形成する粒子の一方が量子電池に、もう一方が電池をはめる機械に設置されているわけです。
通常の電池の場合、この状態でスイッチを入れれば電池からエネルギーが機械に流れます。
イメージ的には、電池からエネルギーが飛び出て、機械に入っていく感じでしょう。
しかし今回の研究では少し違います。
量子的なエネルギーを蓄積した装置から機械が得られる有効な仕事量のことは『エルゴトロピー』と呼ばれており、通常の電池が放出するエネルギーとは違う意味を持っています。
特に今回の研究では、エネルギーとはシステム全体が持つ熱や電荷や位置を含めた総エネルギー量を指し、エルゴトロピーとはその中で仕事として取り出せる部分と定義されました。
「システム全体のうちの取り出せる仕事量」という点では通常の電池を使う場合も含みますが、量子力学や量子熱力学では量子もつれが存在するため、単純なエネルギーではなく、取り出せる仕事量に特化したエルゴトロピーという概念があると便利なのです。
また取り出せるエネルギー、すなわちエルゴトロピーを増加させる極度の効率化が達成できれば、結果的に限界を超えて(エネルギー保存則に反しないレベルで)仕事量を移動させることも可能になります。
量子的相関関係は機械が自身の潜在的なエネルギーを解放するための鍵のようなものです。
この鍵を上手く使うことで、電池が提供するエネルギーに加えて、機械は自身の内部エネルギーを活用して、より多くの仕事を行うことができます。
あえて人間食事に例えれば量子的な相関関係は覚せい剤であり、少量の食事をとるだけで、体に蓄えた脂肪を沢山燃焼させ、取り入れたカロリー以上の動きをできるようにしてくれる仕組みと言えるでしょう。
(※この技術は量子力学の仕組みを使って充電量より多いエネルギーをなんとか絞り出しているのであり、無限にエネルギーを供給できる永久機関ではありません。)
実際の研究では下の図のような設定が行われ、左側の量子電池(B)から右側の機械(C)に向けてエルゴトロピーが移動する様子が描かれています。
ここではその様子を量子的相関がある場合とない場合について、具体例を用いて解説したいと思います。
まず電池Bと機械Cは、通常の接続とは異なり、量子的な相関(例として「量子もつれ」を含む)を持ってるとします。
例として、電池Bと機械Cがそれぞれコインを持っていて、このコインの「表」と「裏」の状態が量子もつれによって関連していると考えます。
相関がない場合、電池Bから機械Cへのエルゴトロピーの転送では、電池Bが失ったエルゴトロピーの量がそのまま機械Cのエルゴトロピーとして受け止められます。
例えば、電池Bが10単位のエルゴトロピーを失った場合、機械Cでは10単位だけのエルゴトロピーを得るという、通常のエネルギー移動のような関係です。
量子的な相関(例:量子もつれ)があると、この関係によって機械Cが電池Bから失われる以上のエルゴトロピーを得ることが可能になります。
例えば、電池Bが10単位のエルゴトロピーを失った場合でも、機械Cが15単位のエルゴトロピーを得る「利得」が発生します。
このような利得が発生するのは、量子力学的な効果により、機械Cの内部エネルギーを仕事として利用不可能な状態から、仕事として利用可能なエルゴトロピーへと変換しているからと言えるでしょう。
量子的相関を量子電池と機械の間で結ぶことにより、限界を超えたエネルギーの効率化が実現するのです。
研究者たちは「量子電池にとって相関関係をはじめとした情報は非常に貴重なリソースになると」述べています。
また今後は、どのような量子的相関関係が最も効率的であるかも調べていくとのこと。
かつては「充電量を超えるエネルギーを放出する」と言うと、トンデモ科学のような扱いを受けていましたが、量子力学の進歩により一概に嘘とは言えなくなっているのは驚きです。
もし将来的に量子電池が専用デバイスと共に普及すれば、充電量を超えるエネルギーを供給できることが、ある種の品質保証になるかもしれません。