隕石の中に隠された証拠:太陽系は2世代目以降の産物
大質量星が散り際に放った“贈り物”は、どのように今の太陽系へと受け継がれたのでしょうか。
その答えを知るための重要な手がかりが、実は隕石に秘められています。
隕石は、小惑星帯や彗星など、太陽系の“端っこ”や“あいまいな境界”で作られた天体のかけらが地球に落下してきたものです。
その多くは、46億年前の太陽系が誕生し始めた頃の“化学的な指紋”をほとんど失わずに保存している、言わばタイムカプセルです。
というのも、私たちが普段触れる地球の岩石は、長い年月の間に火山活動やプレート運動で再加工され、46億年前の姿はすっかり“塗り替え”られています。
その点、小惑星などは内部に地質活動がほとんど起こらず、形成直後の状態を保ち続けたまま今日に至りました。
そこから落ちてきた隕石は、太陽系最初期の物語を閉じ込めた鉱物サンプルなのです。
そんな隕石の中には、今回の研究で大きな役割を果たす2つの“しるし”が刻まれています。
1つはアルミニウム26と呼ばれるアルミニウムの放射性同位体です。
アルミニウム26は、半減期が約73万年と短いため、現代の地球や若い隕石にはほとんど残っていません。
しかし、太陽系最初期(約46億年前)の隕石には、その娘核種であるマグネシウム26(26Mg)の過剰量という形で痕跡が刻まれています。
これほど大量のアルミニウム26がどうやって太陽系に供給されたのかは、長らく謎とされてきました。
赤色巨星やウォルフ・ライエ星、さらには白色矮星が起こすタイプの超新星爆発など、多様な起源が議論されてきたものの、決定打に欠けていたのです。
もう1つはチタン同位体 (チタン46、チタン50 など) です。
チタンは壊変しない安定同位体ではあるものの、特定の核反応過程(たとえば大質量星の内部や超新星爆発)でしか生成されない“異常”な組成を持つことがあります。
そこで研究者たちは、同じ隕石中のアルミニウム26の痕跡やチタン46やチタン50の状態を調べることで「どのような爆発現象がいつ起き、どの程度の量が太陽系に混ざったか」を一挙に推定できる「アルミニウム–チタン宇宙核時計」と呼ばれる新手法を開発しました。
そして実際に隕石の微量同位体組成を丹念に調べると、「ある地域(小惑星や彗星の母天体)にはアルミニウム26やチタン同位体が多い」、「別の地域には少ない」といった不均一な分布が見えてきました。
これは、太陽系が形づくられるほんの数百万年~数千万年のあいだに、“母なる大質量星”が供給した物質が円盤の一部(主に外側)に偏って混ざったことを示唆しています。
さらに今回の研究では、隕石中に残るアルミニウム26量(実際には崩壊生成物であるマグネシウム26量)と、チタン同位体(チタン46やチタン50など)の偏りに強い相関があることが示されました。
これはアルミニウム26とチタン同位体の“セット”が同じ時期に、大質量星(重力崩壊型超新星)から供給されたことを示唆します。
さらに、研究チームはこの相関を利用して、これらの物質がいつ供給されたかを調べたところ、太陽系最古の隕石が形作られる約90万年前(= 0.9百万年前)に爆発が起きたと推定され、しかもその爆発は太陽系の材料となった分子雲から見て100光年以内という近距離で起きた可能性が高いことがわかりました。
こうした結果を受けて浮かび上がってきたのが、「太陽系の元となる分子雲に、大質量星由来のアルミニウム26とチタン同位体が同時に混入し、外側ほど多く蓄積された」というストーリーです。
隕石はそのプロセスをありのままに封じ込めており、“母なる大質量星”の足跡を今に伝えてくれているのです。
ある意味で、大質量星の「最後の輝き」は太陽系にとっては「誕生の助走」でもあったわけです。
また技術的な面においても、今回の発見は重要です。
これまで隕石年代測定においてアルミニウム26が太陽系全体で均一だと想定することで算出してきましたが、それが外側に偏っていた場合、年代測定の結果が大きくズレてくるからです。
さらにアルミニウム26は、その崩壊熱によって微惑星や惑星胚(エンブリョ)の内部を温め、分化や核形成を促進する重要な熱源だったと考えられています。
今回明らかになった不均一分布や爆発時期を考慮すると、惑星の形成や進化がどのタイミングで進んだのかを、従来モデルからアップデートすることもできるでしょう。