キーワードの定義:孤独(Solitude)と寂しさ(Loneliness)

「孤独」と聞くと、多くの人は “ひとりぼっち” “暗い” といったイメージを思い浮かべるかもしれません。
しかし、英語の孤独を意味する “Solitude” という概念は、単に「誰とも一緒にいない状態」を指すだけでなく、しばしば中立的あるいはポジティブな意味合いで用いられます。
心理学・社会学の研究では、この “Solitude” に「創造性や内省を高める時間」「自分のペースで心身を休めるひととき」としてのメリットがあることが示唆されています。
たとえば Long & Averill (2003) の研究では、自発的にひとりの時間を選ぶことで、気持ちをリセットしたり、新しい発想を得たりしやすくなると報告しています。
また、精神科医アンソニー・ストー(Storr, 1988)の著書『Solitude: A Return to the Self』でも、クリエイティビティや自己成長のために不可欠な「静かな内面世界」を育む時間として、“Solitude” の積極的な側面が強調されています。
さらに、多くの人は日常生活の中で人間関係や社会的役割に追われがちですが、意識的に一人の空間を確保することで、自分を振り返り、自分らしい考え方や行動指針を再確認することができます。
こうしたプロセスが、孤独(Solitude)に見いだされるポジティブな意味合いといえるでしょう。
一方で、寂しさを示す“Loneliness” という単語には、“他者とのつながりを求めているのに得られない苦痛” という、強い主観的な感情が含まれています。
たとえ周囲に人がたくさんいたとしても、自分を理解してもらえない、自分だけ仲間外れになっていると感じる、といった状況で起こるのが典型的な “Loneliness” です。
この感情は、社会神経科学の分野で多大な研究を行ったジョン・カシオッポ(Cacioppo, 2008)の一連の研究でも強く取り上げられています。
彼は、寂しさ(Loneliness)を感じるとストレス反応が高まりやすく、メンタルヘルスだけでなく、血圧の上昇や免疫機能の低下など、身体的な健康面にもデメリットが生じる可能性を指摘しました。
つまり “Loneliness” は、心身に大きな負担をかけるリスク要因にもなり得るのです。
もう一つ注意したいのは、寂しさが必ずしも「ひとりでいる時間」にだけ起こるわけではない点です。
人混みの中や友人・家族と一緒にいても、心のどこかで「誰も自分を理解してくれていない」と感じれば、その人は孤独感=“Loneliness” を抱くことになります。
これは、客観的な「人の数」ではなく、主観的な「満たされている感覚」が大きな鍵になることを示唆しています。
日本語で「孤独」「寂しさ」と訳した場合、“Solitude” と “Loneliness” が厳密に区別されず、一括りに「孤独」「寂しい」と表現されることが少なくありません。
結果として、「孤独=ネガティブ」というイメージが先行してしまい、“ひとりでいることそのものが悪いこと” のように捉えられがちです。
しかし、前述したように “Solitude” と “Loneliness” は科学的に異なる概念であり、ひとりでいること自体がいつでも辛く、寂しい状態を生み出すわけではありません。