人間の記憶メカニズムは他の動物と根本的に違っていた

今回の発見は、ヒトの海馬や扁桃体が「人物や場所」というコア情報をまずは固定的に捉え、後から“文脈”要素を柔軟に結びつけている構造を持つことを示唆します。
マウスやラットなどの動物では、同じ細胞が環境の変化に合わせて大きく活動を変えることが珍しくありません。
一方、ヒトではニューロンが「誰(または何)」に対して反応するかをほとんど変えずに保ち、その上に文脈の違いを重ね合わせる――いわば“安定した土台”をもつ形で記憶を形成している可能性があります。
例えるならば、人間の記憶は先端を交換できるマルチビットドライバーで、コアの部分を揺るがさず、後から多様な状況や文脈に対応できる設計と言えるでしょう。
逆に、マウスなどでは環境が違うとドライバーそのものを変えるように、別の神経細胞の活動パターンを使い分けているのかもしれません。
fMRIなど大規模な脳活動を調べる研究では、文脈が変わると海馬の反応が変化するように見える報告も多くあります。
この違いは「単一ニューロンのレベルでは文脈に動じなくても、複数のニューロンが同時に活動するときの組み合わせは変わる」ことで、最終的に文脈差が生まれるためと考えられます。
また、今回の実験は難治性てんかんの患者さんが対象で、提示したストーリーも簡単なものに限られました。
より複雑な文脈や長期にわたる学習を追跡すると、さらに精密な仕組みが見えてくるでしょう。
それでも今回の結果は、「ヒトがある意味“文脈から自由”な形で概念を捉えている」可能性を示す重要な一歩となりました。
こうした特性が、高度な言語や論理思考、自己認知などを支える基盤になっているのではないでしょうか。
今後の研究の進展が、私たちの意識や記憶の根本をさらに解き明かしてくれることが期待されます。



























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脳の部位別大きさを動物毎に比べて見ると、相対的に齧歯類の海馬はヒトよりも大きいことが分かります(清野 躬行著 「脳のシステム.アーキテクチャー」p.372表6参照)。また、H.M.の症例などから見てヒトの海馬には記憶.認識機能もありません(同著pp.256-264参照)。ヒトの海馬は、脳進化の過程で、記憶機能を新皮質(側頭・頭頂連合野)側に譲り、記憶制御に徹するようになったと考えられます(同著p.373, p.259の注参照)。記憶機能を担わない分、ヒトの海馬はは小さくなったということです。
面白い話ですね。既存の霊長類とも違うアーキテクチャを使っているというのであれば、人類の進化の過程のどこかで変化が起きたと考えられます。それがいつどこで、何をきっかけとして起きたのかは、とても興味深い話題です。環境の違いよりも人物の違いの方が重要になるような変化がどこかで起きたのでしょうか。そうだとしても、他の霊長類にはない変化なのですから、他の霊長類が経験していないような状況がそれを生じさせたのだと考えられます。