疲労物質だと思っていた乳酸が、実は脳の栄養源だった?
これまで多くの研究で、乳酸が筋肉で生成され、脳へも運ばれてエネルギー源になることは示唆されていました。
しかし、「どのような運動が脳に特に良い影響を与えるのか」については、詳しい検証が不足していました。
そこで今回の研究チームは、日常でも取り入れやすい「ゆっくりと坂道を歩く」という運動が、どの程度脳に影響を与えるのかについて検証を行ったのです。
研究では、ラットを使った実験が行われました。
ラットたちは平坦な道を歩むグループと、急な坂道(傾斜40%)をゆっくり(時速13m/min)歩くグループに分けられ、さらに運動時間による違いを調べるため、30分間と90分間という2つの時間設定で実験が行われました。

その結果は驚くべきものでした。
90分間の坂道ウォーキングを行ったグループでは、平坦な道を歩いたグループに比べて血液中の乳酸が有意に増加し、この乳酸の増加に伴って、脳内でも乳酸濃度が上昇することが確認されたのです。
さらに重要な発見として、脳の海馬や大脳皮質では、乳酸の上昇と共にBDNFの発現量が増加していました。
BDNFは「脳の栄養剤」とも呼ばれ、記憶力や学習能力の向上、さらには神経細胞の保護や新生に関わる重要な物質です。
また研究チームは、直接血中に乳酸を注入する実験も実施しています。
その結果でも、血中の乳酸濃度の上昇がそのまま脳内乳酸の増加に繋がることが確認され、今回の結果をさらに裏付ける形となりました。