AIの力を活用し「マウスの電子脳」を作成することに成功
AIの力を活用し「マウスの電子脳」を作成することに成功 / Credit:Canva
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AIの力を活用し「マウスの電子脳」を作成することに成功 (2/3)

2025.04.16 17:00:37 Wednesday

前ページマウスの電子脳を作る試みが始まった

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深掘り解説:マウスの電子脳はどのように作られたか?

全体の「共通のコア」となる脳の処理モデルを作り上げる流れ
全体の「共通のコア」となる脳の処理モデルを作り上げる流れ / この図は、まず多数のマウスから集めた自然動画データを使って、全体の「共通のコア」となる脳の処理モデルを作り上げる流れを示しています。 この共通のコアは、いわば「基礎地図」のように、複数のマウスで共通する視覚処理のパターンを学習するためのものです。 その後、新たなマウスに対しては、コア部分はそのまま固定し、各マウスに合わせた微調整(視点や行動、出力部分の調整)のみを追加で学習させます。 実験では、わずか4分から最大76分の自然動画データだけで、新しいマウスの視覚野の活動を高い精度で予測できることが確認され、従来の個体ごとに一から学習する方法と比べ大幅なデータ効率の向上が実証されました。 また、図は新たな刺激領域(静止画像や合成パターンなど)においても、このファウンデーションモデルがしっかりと機能することを示し、まるで「共通の地図」を少し補正するだけで未知の地域でも正確な位置が把握できるかのような柔軟性を表しています。/Credit:Eric Y. Wang et al . Nature (2025)

マウスの電子はどのように作られたのか?

研究チームの最初のアプローチは、まず「たくさんのマウスが、いろいろな映像を見たときに脳のどこがどんなふうに動いているか」を一気に集めて、大きな“共通の地図”を作ることから始まりました。

イメージとしては、違う国の地図を全部まとめて、どこに山があり、どこに街があるのかを一本化した“世界地図”を用意するような感じです。

すると、新しく測定したマウスが登場しても、その“世界地図”をベースにして少しだけ微調整すれば、たちまち「このマウスの視覚野はこんなふうに動くのか」と予測できるようになるわけです。

しかも、このモデルがすごいのは、自然界のリアルな映像だけでなく、模様や点々が動くだけのような“特殊な映像”に対しても、実際のマウス脳が見せる反応をかなり近い形で再現できる点です。

たとえば「山や川がちゃんと描かれた詳しい地図」を持っていると、街の配置だけを簡略化した地図でも大体の位置関係を推測できる――そんな想像をしていただくとわかりやすいかもしれません。

さらに、もうひとつの面白い発見は、こうして作られた“マウスの電子脳”が、実際のマウスの脳細胞の構造と見事にリンクしていたことです。

要するに、“脳活動”をバーチャルに再現するだけにとどまらず、その元になっている細胞の形やつながり方とも対応がとれている。

これは、「視覚処理の仕組みをほぼそっくり仮想空間に移植した」とでも言いたくなるような未来を感じさせる結果です。

この成果がなぜ画期的かというと、大ざっぱに言えば「動物実験でごそっと集めたデータをまとめてしまえば、新しく測ったマウスにも手早く応用できる」というところにあります。

まるで共有の“ベースマップ”を作るようにしておけば、あちこちのマウスでいちいちゼロから地図を作り直す必要がなくなるのです。

これによって膨大な時間や手間を省きながら、多種多様な“脳の動き方”を一気に予測できるようになるわけです。

そしてもし、この“電子脳”がさらに進化すれば、研究者はコンピュータの中で好きなだけ実験を試し、うまくいきそうなものだけを実際のマウスで検証するといったスピーディーな研究手法が可能になるかもしれません。

これは神経科学の常識を大きく塗り替えるだけでなく、“脳を理解する”という人類の長年の挑戦を加速させる大きな一歩と言えるでしょう。

次ページ脳をクラウド化する時代への第一歩

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