“熱”と“混線”という2大ボトルネック

従来の量子コンピュータは、室温付近の電子機器から配線を通じてエネルギー(マイクロ波パルスなど)を送り込み、極低温下にある量子ビットを制御する仕組みになっています。
問題は、こうした外部制御方式によって発生する「熱」と「配線の複雑化」です。
- 熱の問題: 配線を介してエネルギーを送り込む際に、どうしても熱が発生し、量子ビットを冷やす冷凍機(クライオスタット)に大きな負担をかけます。
- 配線の増大: 量子ビットが増えるほど制御線も増やさなければならず、結果として装置は複雑化し、物理的・冷却的にも限界が見えてくるのです。
このように、より多くの量子ビットを使って計算能力を高めたいにもかかわらず、配線に起因する熱と構造面の制約が“ボトルネック”となっていました。
そこで研究チームが注目したのが「量子電池」という新しい概念です。
量子電池は、量子力学的な原理を利用してエネルギーを蓄えたり放出したりできる電池で、通常の電池とは異なり、量子ビット(負荷)と量子的にコヒーレント(相干渉)な状態を保ちながらエネルギーをやり取りできる点が特徴です。
つまり、量子ビットと電池が一体となって振る舞うため、理論上はエネルギー交換の際に熱が発生しません。
これまで量子電池そのものの研究は行われていましたが、それを量子コンピュータの「動力源」として活用しようという枠組みはありませんでした。
そこで研究チームは、世界で初めて「量子電池を用いて量子コンピュータを動かす」というコンセプトを打ち出し、内部電源方式の可能性を検討することにしたのです。
目指すのは、外部配線に依存せず、量子電池が供給するエネルギーだけで量子ゲート操作(論理演算)を行い、しかも従来と同等以上の演算精度を確保することでした。
こうして、量子ビットの増加が制約される根本的な原因である「外部からの配線」を劇的に減らすことができれば、より大規模な量子計算機を実現できるのではないか——。
それが研究チームの大きな狙いであり、本研究の原動力となっています。