量子電池が開く〈内蔵パワー〉革命

今回の研究チームは、量子電池として単一モードのボソニック共振器(例:マイクロ波光子のモード)を想定しました。
まず、この共振器に一定数の光子(エネルギー量子)を蓄えておき、複数の量子ビットと結合させます。
すると、共振器と量子ビット群全体は“タビス–カミングスモデル”と呼ばれる理論で記述でき、系全体のエネルギー総和が保たれたまま、光子が量子ビット間を自由に行き来するようになるのです。
ここでのポイントは、各量子ビットの共振周波数を「電池」に合わせたりずらしたりするだけで、さまざまな論理操作ができることです。
研究チームは、この仕組みを大きく3種類のゲート操作にまとめました。
1:エネルギー転送ゲート
電池(共振器)に蓄えた光子を特定の量子ビットにやり取りすることで、ビットの状態(0と1)を反転させる操作ができます。
これはいわば、量子ビットの「充電」あるいは「放電」に相当します。
2:全ビットエンタングルゲート
電池を介して複数の量子ビットを同時に絡み合わせ(エンタングルメントを生成)、一括で操作できます。
隣り合ったビット同士だけでなく、離れたビット同士も一度に関係づけることが可能です。
3:位相ゲート
非共鳴状態(電池の周波数とは少しずらした状態)で量子ビットを操作すると、エネルギーのやり取りは行わず、位相(量子特有の“振動タイミング”)だけを変化させることができます。
これら3つのゲート操作は、ビットごとの周波数設定を変えるだけで切り替えが可能です。
従来の量子コンピュータのように、各ビットに専用の配線を引き回し、複雑な外部パルスを送る必要がないというのが大きな特徴です。
研究チームは、この方式の有効性を数値シミュレーションによって検証しました。
特に、量子コンピュータに不可欠な「量子誤り訂正」への応用をテストケースとし、量子ビットのエラーを修正するための一連の操作をどれだけ正確に実行できるかを調べています。
その結果、エンコード操作(誤り訂正に必要な初期の処理)を98%以上の忠実度で行えることを確認しました。
これは従来の制御方式に匹敵する精度であり、提案された量子電池方式が十分に実用化を目指せるレベルだといえます。
また、このシミュレーションでは、複数の量子ビットにまたがる「パリティ」(偶奇の性質)を一度の操作で測定できる可能性も示されました。
通常であれば何段階も操作を重ねる必要がある複雑な処理が、電池を介した全体エンタングル効果によってまとめて実行できるというのです。
これは、量子誤り訂正のプロトコルを大幅に簡略化する潜在力があると期待されています。
さらに、ハードウェア面での利点も見逃せません。
従来は量子ビットごとに配線を用意していましたが、この量子電池方式なら外部駆動の配線をほぼ取り除けるため、同じ冷却容器内により多くの量子ビットを実装できます。
研究チームは、この配線削減効果によって理論上4倍もの量子ビットを搭載できるという試算を示しています。
こうしたスケーラビリティの向上は、大規模な量子コンピュータを目指すうえで非常に重要なステップとなるでしょう。