すべての物質はホーキング放射で「蒸発」している?
今回、宇宙の物質の寿命を試算する上で着目された指標は「ホーキング放射」です。
イギリスの著名な天才理論物理学者、スティーヴン・ホーキング(1942〜2018)は1974年、「ブラックホールが徐々に蒸発している」というそれまでにない大胆な理論を発表しました。
アインシュタインの相対性理論が唱えられて以来、ブラックホールは「あらゆる物質をのみ込み、それらを完全に閉じ込めて、自らは縮小することなく、ただただ大きく成長するのみ」と考えられてきました。
しかしホーキングの計算によれば、ブラックホールの縁で発生する奇妙な現象によって、ある粒子ペアの片方がブラックホール内に吸い込まれ、もう片方は外へ飛び出していることが予測されたのです。
これを「ホーキング放射」と呼びます。
そしてブラックホールは極めて緩やかではありますが、ホーキング放射によって最終的には消滅する運命にあるとホーキングは唱えたのです。
そして2021年の研究で、擬似ブラックホールを用いて、ホーキング放射が実際に起こりうることが報告されました(Nature, 2021)。

さらに近年の研究で、ホーキング放射はブラックホールだけではなく、質量を持つあらゆる物体に起こっていることも示唆されています。
つまり、この宇宙に存在するすべての物質は、沸騰した熱湯のようにわずかながら「蒸発」していると考えられるのです。
これらを踏まえて、ラドバウド大学の研究チームは「宇宙で最も寿命の長い物質を対象に、ホーキング放射によって完全に消失するまでの時間を試算すれば、宇宙からすべての物質が消えるまでの残り時間がわかるのではないか」と考えました。
そうしてチームが着目したのが「白色矮星」です。