チューブを使ってサケを上流へ運ぶ「鮭大砲」の仕組み
「鮭大砲」という物騒な呼び名の装置は、サケなどの「遡上する魚」を上流へ安全に運ぶことを目的にしています。
ダムなどで故郷の川に帰れないサケたちを、「鮭大砲」を使って上流へと”ぶっ飛ばす”わけです。
とはいえ、実際に大砲を使うわけでも、空中に放り投げるわけでもありません。

鮭大砲は、直径約30~35cmの柔らかいシリコン製チューブと、低圧の空気流による搬送システムで構成されています。
ダムなどで遮断された下流と上流を繋ぐバイパスとして機能するわけです。
この装置にサケが入ると、空気と少量の水によってチューブ内を秒速5~10mのスピードで滑らかに運ばれ、通常は数十秒で上流に到達します。
チューブの内部の空気圧は低いため、サケを優しく運ぶことができます。
また内部のミスト噴射が潤滑油のような役割を果たし、魚体へのダメージを最小限に抑えています。
従来のシステムでは、人間の手で魚をチューブに入れる必要があり、時間と労力がかかるだけでなく、魚にもストレスを与えていました。
しかし、改良された「鮭大砲」では、下流に設置された入口から水が絶えず流れ出るようになっています。
この流れが遡上しようとする魚の本能をくすぐり、自然に入口へと引き寄せます。
人間が魚をチューブに入れる必要はなく、魚たちが自らチューブへと入っていくのです。

そして最新モデルでは、AIと画像解析技術が搭載され、魚種や健康状態を自動で判別することが可能になっています。
これにより外来種や病魚は除外され、在来種や目的種だけを選択して搬送。
この機能は、生態系の保護に大きく貢献しています。
アメリカでは、すでに「鮭大砲」が活用されており、サケたちは巨大なダムや土砂崩れを越えて、故郷の川に帰ることができています。
サケを上流へ”ぶっ飛ばす”鮭大砲は、ダムが必要な人間と、遡上したいサケたちが手を取り合うための画期的なシステムなのです。