猫の寄生虫は5分で人間の精子の頭を切断できる
猫の寄生虫は5分で人間の精子の頭を切断できる / Credit:clip studio . 川勝康弘
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猫の寄生虫は5分で人間の精子の頭を切断できる

2025.06.03 22:00:31 Tuesday

ドイツのユストゥス・リービッヒ大学ギーセン(JLU)で行われた研究によって、ネコからうつる寄生虫トキソプラズマ(T. gondii)が、人間の精子の「頭」にあたる部分をわずか5分で奪い去る――そんな衝撃的な実験結果が発表されました。

さらにマウス実験では、感染後わずか2日で寄生虫が精巣と副睾丸に到達し、生きた状態で存在していることが確認され、男性不妊の潜在的リスクが初めて直接示されたのです。

あなたの身近にも潜むこの「静かな寄生虫」は、世界的に減少する精子の質・量にどれほど影響しているのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年5月3日に『The FEBS Journal』にて発表されました。

Adverse impact of acute Toxoplasma gondii infection on human spermatozoa https://doi.org/10.1111/febs.70097

見落とされていた感染リスク

見落とされていた感染リスク
見落とされていた感染リスク / 図は研究手法の一部を示しています。研究ではヒト精子を寄生虫トキソプラズマと一緒に試験管内で “同居” させたときに、時間の経過とともにどれだけ「頭(核の詰まった先端部分)がちぎれてしまうか」を調べている様子を示しています。右上の写真がトキソプラズマを入れない場合で、左下の写真がトキソプラズマを入れた場合です。左下では黒い矢印で示されたように精子の頭部がポロリと千切れてしまっている様子が示されています。/Credit:Lisbeth Rojas-Barón et al ., The FEBS Journal (2025)

男性の精子の数や質はこの半世紀で大きく低下しているとの報告があり、男性不妊は世界的な課題となっています。

しかしその原因は未だ十分に解明されておらず、肥満や食生活、有害物質への曝露など様々な要因が指摘される一方で、感染症の影響はこれまで見過ごされがちでした。

例えば淋菌やクラミジアなどの感染症は精子に悪影響を及ぼし得ることが知られていますが、日常的によくある寄生虫感染については議論に上ることは少なかったのです。

こうした中、世界で最もありふれた寄生虫の一つであるトキソプラズマ(T. gondii)に注目した研究チームがあります。

トキソプラズマは主にネコの糞便を介して広がる単細胞の寄生生物で、世界人口の30~50%が持っているとも言われるほど一般的です。

人間を含む温血動物の体内に入ると各種臓器の中に潜伏し、一度感染すると体内(筋肉、脳、心臓など)にシスト(嚢胞)を形成して一生潜み続ける厄介な性質を持ちます。

健康な人では初期感染で目立った症状が出ないことも多いものの、免疫が低下した人や妊婦が初めて感染した場合には深刻な病気を引き起こし、流産や胎児の障害、場合によっては命に関わることさえあります。

トキソプラズマは非常に広範な細胞を侵すことができ、「人間や他の哺乳類の体内のあらゆる有核細胞に感染しうる」とも言われます。

1980年代のエイズ流行期には、免疫不全の患者の精巣でトキソプラズマ感染が見つかった例が報告され、この寄生虫が人間の男性生殖器官を狙い得ることが示唆されました。

また動物実験でも、トキソプラズマに感染したマウスやラット、ラム(雄ヒツジ)で精子数の減少や形態異常、精巣機能の低下が起こることが報告されています。

2017年にはマウスの前立腺内にトキソプラズマのシスト(休眠型の寄生体)が形成されることも確認され、さらにはヒトの精液中にもトキソプラズマが存在する可能性が指摘されました。

こうした知見から、「寄生虫が精巣に潜むことで生殖機能に悪影響を及ぼすのではないか」という疑問が生まれ、少人数規模ながらトキソプラズマ感染男性の精液に異常が多いとの調査結果も発表されています。

そこで今回、ドイツ・ウルグアイ・チリの国際研究チームはトキソプラズマが男性の生殖能力に与える影響を詳しく調べる実験を行ったのです。

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