7つの論点で人類由来の大量絶滅を否定する

研究チームは、第6の大量絶滅だとする説に対する主な懸念点として次の7つを挙げています。
1つ目は75%絶滅の基準には達していない点です。
過去の「大量絶滅」は世界の生物種の75%以上が失われたとする基準があります。
しかし現在までに絶滅が確認された種の割合はごくわずかです。
過去500年間で人間の影響により絶滅したと確認された種は、知られている全種の0.1%未満に過ぎません。
このペースで75%もの種が失われるには数百年から数百万年がかかる計算であり、「現在進行中」と呼べる状況ではないことになります。
2つ目は絶滅速度の一時的な上昇=大量絶滅ではないことです。
短期的に見て現在の種の絶滅ペースが過去より速いという研究報告がある点です。
しかし、化石記録によれば大量絶滅期以外にも絶滅率が一時的に急上昇(スパイク)する時期が何度もありました。
過去にも平常時を上回る絶滅の“山”は頻繁に起きているため、絶滅率が背景水準より高いというだけで即「大量絶滅」と断定するのは適切ではないといいます。
また、第6の大量絶滅を唱えた先行研究では、北米の哺乳類化石データなど限られた範囲の背景絶滅率と比較して結論を出したものもありますが、そうした比較には統計的な裏付けが十分ではなく、妥当性に疑問が残ると指摘しています。
3つ目は最近の絶滅例は偏った特殊ケースであることです。
ここ数百年の間に記録された種の絶滅の多く(約75%)は島で発生しています。
しかし島嶼部の種は全生物種の約20%しか占めず、本来大半の種は大陸に生息しています。
また絶滅の原因も、島では侵入した外来種による生態系攪乱が多かったのに対し、大陸では現在生息地破壊や気候変動など別の脅威が主要因となっています。
島での絶滅傾向をそのまま全球規模に当てはめて将来を予測することはできないと研究者らは述べています。
4つ目は全ての種が一様に脅かされているわけではないことです。
第6の大量絶滅を主張する多くの研究は、現在危機に瀕する種が仮に全て消えた後も、その絶滅の勢いが衰えず続くと仮定しています。
しかし将来なぜそのような大規模絶滅が起こり続けるのか明確な説明はなく、現時点で絶滅の心配がない種も多数存在します。
実際、評価が行われた全生物種の半数超は「絶滅の恐れが低い」種と分類されており(脊椎動物では約63%が低リスク)、それら健全な種までも将来消えると予測するのは飛躍しすぎています。
また、ある試算では人間活動の影響で今後失われる恐れのある種は約100万種(全体の12%程度)とされていますが、これは75%という基準には程遠い数値です。
5つ目は保全活動の効果を無視できない点です。
現在、種の保存と生息地保護のため世界中で様々な保全対策が講じられており、そのおかげで絶滅のペースは緩和されています。
例えば、保全活動によって絶滅を免れた脊椎動物も数多く報告されており、人類の影響で絶滅危機に陥る種がある一方で、積極的な保護策によって救われている種も少なくありません。
将来の種の損失を予測する際にこうした保全の取り組みを度外視するのは誤りであり、現状より悲観的なシナリオを導くおそれがあります。
6つ目は現在の脅威が永続する保証はないということです。
気候変動や人口増加など、生物多様性に対する現在の主な脅威が数百年先まで今と同じペースで続くかは不透明です。
例えば、いくつかの緩和シナリオでは、地球温暖化は今後約50年でピークに達した後、緩やかに落ち着くとすると予測されています。
また世界人口も2080年頃から減少に転じる可能性が指摘されています。
もちろん2100年以降も何らかの脅威は続き、新たな問題が生じる可能性はあります。
しかし、現在観測されている絶滅率が今後何百年も一定だと仮定してしまうのは現実的ではないとしています。
7つ目は議論が地球上の生物多様性全体を反映していないという点です。
第6の大量絶滅に関する議論の多くは陸上脊椎動物(哺乳類・鳥類・両生類・爬虫類)に焦点が当てられています。
しかし脊椎動物は地球上の全動物種の約2.5%に過ぎません。
残りの大半を占める昆虫など無脊椎動物の動向は十分考慮されておらず、仮に将来75%もの種が失われるとすればその多くは昆虫など脊椎動物以外で起こるはずだと指摘されています。
実際、一部地域では昆虫の個体数減少(いわゆる「昆虫の黙示録」現象)が報告されていますが、それが最終的に何%の種の絶滅につながるかは依然不明です。
現在の議論は生物多様性のごく一部のデータに偏っており、地球全体の傾向を十分に反映していない可能性があります。