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Credit:Nonlinear Calcium King Plot Constrains New Bosons and Nuclear Properties
physics

原子の中に第5の自然の力が発見されたかもしれない (2/3)

2025.06.17 18:00:26 Tuesday

前ページ4つの力では足りない理由

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原子が囁く“第5の力”

原子が囁く“第5の力”
原子が囁く“第5の力” / Credit:Canva

第五の力は存在するのか?

謎を解明するための研究チームは、ドイツの物理工学研究所(PTB)、スイスのETHチューリッヒ、ドイツ・マックスプランク核物理学研究所など豪華メンバーで構成されました。

研究者たちはまず、カルシウム原子の「五つの兄弟」──^40Ca、^42Ca、^44Ca、^46Ca、^48Ca──を一つずつ取り上げ、それぞれで二種類の“音階”を聞き取るように電子の色(光の周波数)を測定しました。

ひとつは電子を1個だけ失ったCa⁺、もうひとつは20個ある電子のうち14個も失ったCa¹⁴という超スリム体形のイオンで測定し、電子が核に強く引っぱられるほど微妙な違いがくっきり現れる仕組みを利用したのです。

この周波数のペアを五つの同位体で測ると全部で四つの差(^40Caに対するズレ)が得られます。

ふつうなら、その四点をグラフに打つと一直線になる――これが「キングプロット」のお約束です。

ところが今回はその線がわずかに「しなる」ことが分かりました。

その曲がり具合は確率論で言えば900σという桁外れの確からしさで、偶然や単純な測定ミスではまず説明できません。

(※通常の新規発見といわれる場合は5σ程度で十分と言われていますから900σがいかに圧倒的な数値かがわかります。)

新発見とσの関係とは?

物理学の論文でしばしば目にするσ(シグマ)は、観測値が「平均からどれだけ離れているか」をはかる“ものさし”です。通常、データのばらつきをまとめる指標として使われますが、新しい現象を見分けるときには「どれくらいσ分だけ飛び出しているか」が決定打になります。たとえば平均から1σ外れる事象は、確率でいえばざっくり三分の一の頻度で起こり得るので「たまたま」かもしれません。ところが5σ離れると偶然に起きる確率は350万分の1まで下がり、「ほぼ偶然では説明できない」という水準に到達します。粒子物理や天文学の世界で「発見!」と宣言する目安が5σなのはこのためです。今回のカルシウム実験で観測された曲がりはおよそ900σ、すなわち5σどころか桁違いに遠く、日常的なゆらぎで説明するのはほぼ不可能な領域に入っています。言い換えれば、σという数字が大きくなるほど「偶然ではなく、本物の新現象だ」と胸を張れる自信度が指数関数的に増すのです。

では何が線を曲げたのか?

考えられる理由は二つに大別されます。

ひとつは電子の雲が原子核をほんとに少し押しつぶして偏極させる“核分極効果”か、それとも標準模型を越えた未知の相互作用――いわゆる『第5の力』です。

残る選択肢は、標準模型の枠内にあるもの、たとえば「二次質量シフト」と呼ばれる高次効果ですが、細かい計算をしても曲がりを全部埋めるには力不足でした。

核分極効果はこれまで精密に扱われてこなかったため不確かさが大きいものの、現時点で標準模型側から差し出せる“最後のカード”でもあります。

つまり、キングプロットのわずかな「しなり」は、見落とされてきた核の揺らぎか、まったく新しい力のささやきか、そのどちらかが本命として残ったのです。

次ページ核分極か、第5の力か

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