核分極か、第5の力か

今回の研究によって発見された“まっすぐにならない線”について研究チームは、偶然ではなく物理的な原因が潜んでいると見ており、先に述べたように、2つのシナリオが想定されています。
ひとつめは、私たちがまだ知らない新しい力――電子と中性子の間でこっそり作用する“第5の力”――が関わっているという可能性です。
もしそれが正しければ、今回見つかったズレはこの未知の力の“初サイン”ということになります。
もうひとつは、従来は無視できるほど小さいと思われていた核分極効果が、実は思ったより大きく顔を出しているパターンです。
こちらが本当なら教科書を書き換える必要はありませんが、原子核の内部構造をめぐる理解が一段深まることになります。
ただし計算の不確かさが残る現段階では、核分極効果だけでズレを説明し切れるかどうかは断言できず、第5の力の芽も完全には摘み切れていません。
研究チームは「さらに高精度の測定と理論を突き詰めて、原因を絞り込む必要がある」と慎重な立場です。
仮に第5の力が本当に存在するとしても、今回の分析によりその強さや届く範囲はこれまでより厳しく絞られました。
換言すれば、もし新しい力がいても私たちの日常では感じ取れないほど微弱だということが、よりはっきりしたわけです。
一方で、核分極効果のような標準模型内の現象がこれほど目立つかもしれないという点も、十分に大きな発見と言えます。
今回のカルシウム実験は、未知の力を探る地図に新しい方位線を引いた重要な一歩です。
今後は核分極効果をもっと精密に計算する研究や、別の元素・別の遷移を使った追試が計画されています。
測定精度がさらに上がり、既知の効果をきれいに差し引けるようになれば、残るズレが本当に“第5の力”によるものか、それとも原子核内部の意外な動きかが判明するでしょう。
今回とらえたわずかな「しなり」が、新しい自然法則への扉なのか――その鍵を手にする日を、多くの科学者が待ち望んでいます。