足腰が自然と鍛えられる「武士の所作」

年齢を重ねると誰もが直面する問題のひとつに「脚腰の筋力低下」があります。
特に膝を伸ばす力(膝伸展筋力)は、歩行や立ち上がり、階段の昇降などに欠かせないものですが、高齢になるにつれて大きく衰えていきます。
この筋力の低下は、転倒や寝たきりのリスクを高め、生活の質を大きく損なう要因となります。
もちろん、筋力を維持・改善するための科学的に裏付けられたトレーニング方法は数多く提案されています。
しかし実際の生活に取り入れるとなると、時間や費用の負担、継続の難しさといった壁が立ちはだかります。
ジムに通う、専用器具を揃えるといった方法は確かに効果的ですが、多くの人にとって続けるのは簡単ではありません。
一方で、かつての日本の生活様式を振り返ると、日常の中で自然と足腰を鍛える機会が多く存在していました。
正座からの立ち上がり、敷き布団での起き上がり、和式トイレの使用などは、いずれもしゃがむ動作を伴い、脚の筋肉を使うものでした。
しかし生活の西洋化が進み、椅子やベッド、洋式トイレが一般化したことで、そうした機会は大きく減少しました。
この点で注目されるのが、日本の伝統文化として受け継がれてきた「礼法」です。
礼法では「立つ・座る・歩く」といった日常の動作を反動をつけずにゆっくりと行うことが重視されます。
一見すると非効率に思える動作ですが、実際には足腰の力を保つための工夫でもありました。
しかし、こうした動作が筋力や体力に与える効果を科学的に検証した研究は、これまで行われてきませんでした。