「口元にホタテ貝」前例のないヴァイキング女性の埋葬を発見 (2/2)

貝殻の謎と北欧の死生観

この「ホタテ貝による埋葬」は、ノルウェーのキリスト教以前の墓としては過去に例がなく、その象徴的意味について研究者の間でも議論が巻き起こっています。

実際、ホタテ貝は時代や文化によってさまざまな象徴性を持ってきました。

古代ギリシャやローマでは、アフロディーテ（ヴィーナス）の誕生や女性性、豊穣のシンボルとして扱われてきましたが、キリスト教世界で「巡礼」や「魂の旅」の象徴として認知されるようになったのは11世紀以降のことです。

したがって、9世紀のスカンジナビアでホタテ貝がどのような意味を持っていたのか、現時点では全くの謎です。

世界各地の考古学的調査では、副葬品として貝殻が使われる例は決して珍しくありません。

たとえば新石器時代や青銅器時代のヨーロッパでは、海から遠く離れた地で発見される貝殻が、富や交易ネットワーク、社会的地位の象徴と考えられてきました。

しかし今回のヴァイキング女性の埋葬では、貝殻が特別に口元へ配置されていたこと、その几帳面な並べ方からも、単なる装飾品以上の強い意図や意味が込められていた可能性が高いとみられます。

加えて、同じ野原では700年代の骨格遺体も見つかっており、遺伝子分析によって両者に血縁関係があるかどうかも今後明らかになる予定です。

チームは、骨格や副葬品の保存、DNAサンプルの採取を慎重に進めており、女性の身長や性別、健康状態、さらには鳥の骨との関連性など、多角的なアプローチで謎解きに挑んでいます。

現地の地主や発見者の協力により、貴重な情報が失われることなく研究が進められています。

ノルウェー文化遺産総局も緊急予算を投入し、発見品の「セキュリティ発掘」を支援したことで、古代ヴァイキング社会の新たな一端が今まさに明らかになろうとしています。