病院の分類ミスにより「家庭内暴力」が見逃される
救急外来では、患者が到着するとまず初期評価が行われます。
この際、看護師や医師は患者から聞き取った内容をもとに、受傷理由や状況を短い文章として記録します。
問題は、病院側のノートに暴力を示す手がかりが書かれているのに、後から付けられる分類ラベルが「事故」や「非暴力」のままになってしまうような、文章と分類のズレが起こり得る点にありました。
こうしたズレは、多忙な現場では見落とされやすく、結果として記録上は「暴力が存在しなかった」ことになってしまいます。
研究チームが行ったのは、このズレを文章解析で洗い直すことでした。
AIは文章を読み、その記述内容から「暴力由来の受傷らしさ」が高いかどうかを判定し、それを病院側の分類ラベルと突き合わせることで、不一致が疑われる記録を拾い上げました。
研究チームは、イタリア国立衛生研究所(ISS)の全国データベースとして153,826件の救急記録を扱い、さらにトリノのマウリツィアーノ病院のデータとして549,997件の記録を扱いました。
病院データは文章の整形などの前処理を経て369,402件になり、そこから検証に使う「非暴力」記録として359,436件が対象になっています。
つまり、現実の医療現場で書かれた文章を、桁違いの量で読み直す検証が行われたわけです。
そしてAI側も、巨大モデルで力ずくに解くというより、現場実装を意識した設計が選ばれています。
中核となったのがBERTinoというモデルで、イタリア語向けに事前学習された言語モデルです。
BERTinoは巨大な生成AIより軽く速いことが特徴で、病院の限られた計算資源でも動かしやすいとされています。
また、単語の有無だけを見る古い方式ではなく、文全体の構造を踏まえて文脈で判断するため、医療記録にありがちな省略や独特の言い回しが混ざっていても、意味の取り違えを起こしにくいという利点があります。


























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