AIは膨大な書類からどのように「暴力」を見つけるのか
研究チームがこの検証に踏み切ったきっかけは、病院ごとの数字があまりに合わなかったことです。
全国データベースでは暴力由来として扱われた受傷が約3.6%だったのに対し、トリノの病院データでは約0.2%と極端に低く、単に街が安全だからでは説明しにくい差がありました。
そこで研究チームは、病院側で「非暴力」と分類されていた膨大な記録を、文章の中身から再チェックすることにしたのです。
AIは「非暴力」扱いの359,436件を解析し、その中から2,085件を「文章内容から見て暴力由来の可能性が高い」として拾い上げました。
その後、研究者が人の目で確認したところ、2,025件が実際に暴力由来の受傷だと判断されました。
この結果は、AIが拾い上げたものの大半が当たっていたことを示しており、研究ではこの一致の高さを適合率97.1%として報告しています。
ただし、ここで注意が必要です。
研究者自身も、拾い上げられなかった見逃しがどれくらい残っているかを全件確認できていないため、取りこぼしの規模まで含めた評価(再現率の評価)はできないと述べています。
つまり、このAIは「暴力をすべて見つけた」と言えるものではなく、「分類ミスで埋もれていた可能性が高い記録を、高い確度で掘り起こした」と理解するのが正確です。
また、この仕組みが扱えるのは、文章に手がかりが書かれているケースです。
例えば、ノートに「階段から落ちた」としか書かれておらず、実際には押されたのだとしても、それをAIが見抜くことはできません。
それでもこの成果が特に注目に値するのは、家庭内暴力は、そもそも被害が表に出にくいからです。
イタリア国立統計研究所(Istat)によると、暴力を受けた女性のうち報告に至るのは13.3%で、加害者が現在のパートナーの場合は3.8%にまで下がるようです。
言い換えると、医療記録に何らかの形で手がかりが残っているケース自体が貴重であり、そこに分類ミスが混ざると、支援につながる入口がさらに狭まってしまうということです。
今後もAIを上手く活用するなら、人間の手続きの中で生じたミスをできるだけ減らし、支援の入口を少しでも広げていけるかもしれません。

























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