「水のない場所」で進む、宇宙独自の化学反応
よく生命の誕生には水が必要だと言われます。これは生命が生きるために必要という以外にも、ペプチドができる反応でも必要と考えられているからです。
地球上では、アミノ酸がつながってペプチドができる反応は、一般に水の中で進むものとして説明されます。
しかし、宇宙は極低温で真空に近く、液体としての水が存在しない「非水環境」です。
今回の研究では、そんな「水がないから反応は進まないはず」という直感に反して、宇宙でもアミノ酸同士が結びつき、短いペプチドができることを示しました。
また真空容器から取り出した試料を最新分析装置で調べたところ、グリシンが2つ繋がったグリシルグリシンという最も単純なペプチドが形成されていることが特定されました。
今回の発見の意義は、以下の3点です。
まず第一に、グリシルグリシンは、アミノ酸であるグリシンが2つつながったジペプチド(Dipeptide)と呼ばれる分子であり、タンパク質の最も基礎的な構造にあたります。
そしてグリシルグリシンという最も単純なペプチドが確認されたことは、宇宙から降り注ぐ放射線が単に分子を破壊するだけでなく、条件次第では分子をつなぐ方向にも働き得ることを示しています。
第二に、この発見は「生命の材料が生まれるタイミング」に関する見方を揺さぶるものです。
従来、タンパク質のような複雑な分子は、星や惑星が誕生し、ある程度環境が整ったあとに作られるものだと考えられてきました。
しかし、グリシルグリシンがマイナス260度の真空状態で形成されたことは、惑星が形作られる前の「星間雲」の段階で、すでに生命の種が仕込まれている可能性を示唆します。
第三に、この反応が「普遍的な性質」を持っている可能性があることです。
研究チームによれば、アミノ酸同士が結合してペプチドを作る化学反応の仕組みは、共通している可能性があり、最も単純なグリシルグリシンの形成が確認されたことは、宇宙の至る所で、他のより複雑なアミノ酸も同様に結合し、多様なペプチドが生み出されている可能性が考えられるという。
つまりこの発見は、地球のような惑星が誕生したときには、すでに宇宙から「生命の素」が供給され得るという、私たちのルーツに関する新しいシナリオを後押しするものとなっています。
ただし、この研究には注意点もあります。
今回確認されたのはあくまで非常に短いペプチドの形成であり、複雑なタンパク質がそのまま宇宙で作られているわけではありません。
また、生命にはタンパク質以外にも細胞膜や遺伝情報を司る分子が必要ですが、それらが同じように宇宙で作られるかは、まだ分かっていません。
研究チームは、このアミノ酸が結合する仕組みは宇宙における普遍的な反応である可能性があると考えており、今後は他のアミノ酸でも同様のことが起きるか調査を続ける予定です。
もしこのプロセスが宇宙の至る所で起きているとすれば、生命に関わる材料の一部は、私たちが想像するよりもずっと宇宙においてありふれた存在なのかもしれません。
宇宙の冷たい闇の中で着々と準備されていた生命の材料が、やがて誕生した地球に降り注ぎ、私たちのルーツになったのなら、宇宙の他の場所でも似たようなことが起きる可能性はこれまで考えられていたより高くなるかもしれません。


























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