マジックマッシュルームは誰のための「薬」なのか

古い儀式での利用や、最近のうつ病・PTSDの治験、いわゆる“トリップ体験”など、どうしても「人がどう感じるか」に注目しがちです。
しかし、森の地面にじっと立っているキノコ本人にとって、人間が不思議な体験をするかどうかは、どうでもよいことです。
キノコにとって切実なのは、「自分を食べに来る虫やナメクジから、どう身を守るか」というサバイバルの問題です。
実際、キノコはふだんから、幼虫やカタツムリにしばしば激しくかじられています。
植物がトゲや辛味、毒を進化させてきたように、キノコもさまざまな「化学兵器」を身につけていることが知られています。
その中でもシロシビンは特に奇妙です。
セロトニン(気分や食欲を調整する神経伝達物質)に似た形をしていて、脳のスイッチにぴったりはまり、意識や感情を大きく揺らします。
しかもこのシロシビンは、Psilocybe だけでなく、いくつものキノコのグループで独立に何度も進化してきたことが分かっています。
さらに、シロシビンを作るための遺伝子のセット(遺伝子クラスター)は、違うキノコ同士で「コピーの貸し借り」をしたような形跡さえあります。
実際に、シロシビンづくりの遺伝子の束が、丸ごと別のキノコの仲間に“引っ越し”したように見えるケースもいくつも報告されています。
このように種を超えて使いまわされている分子は「有用」だと考えられるサインでもあります。
ただ「自然界で何をしているのか」は、これまでほとんど調べられていませんでした。
シロシビンは「昆虫を遠ざける防御の薬なのではないか」「逆に虫の行動を操作して胞子をばらまかせているのではないか」など、さまざまな仮説が出ていましたが、どれもほとんど検証されていなかったのです。
そこで今回、研究チームは「シロシビンが本当に虫よけや行動操作につながりうるのか」を、ハエと野外のキノコを使って数字で確かめることにしました。


























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