マジックマッシュルームの幻覚成分はキノコのための「虫よけ」だった
マジックマッシュルームの幻覚成分はキノコのための「虫よけ」だった / Credit:Canva
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マジックマッシュルームの幻覚成分はキノコのための「虫よけ」だった (2/3)

2026.01.26 21:30:53 Monday

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「人にはドラッグ、虫には毒」マジックマッシュルームの二つの顔

「人にはドラッグ、虫には毒」マジックマッシュルームの二つの顔
「人にはドラッグ、虫には毒」マジックマッシュルームの二つの顔 / Credit:Canva

マジックマッシュルームは虫にとって本当に「のスープ」なのでしょうか。

答えを得るために研究者たちがまず行ったのは、Psilocybe cubensis の成分を含む粉末や抽出液を用意し、ショウジョウバエの幼虫にぶつけてみる、というシンプルな実験です。

キノコの子実体(傘と軸の部分)を乾燥させて粉にし、その粉を普通のエサに混ぜたものをハエの幼虫に食べさせました。

濃度を変えたPsilocybe入りエサと、ボタンマッシュルーム入りエサ、完全な対照エサを用意し、どのくらいサナギになれるか、どのくらい成虫まで生き残れるか、成虫の体の大きさや羽の左右差がどう変わるかを追いかけました。

結果はかなり衝撃的でした。

高い濃度のPsilocybe入りエサで育った幼虫は成虫まで生き残る割合が普通のエサと比べて通常の約4分の1(約75%減)にまで低下し、成虫になれたものも体が小さく翼も縮んでいました。

生き残った成虫も、胸の大きさや羽の面積が1〜2割ほど小さくなり、左右の羽の形が微妙にズレる「ゆがみ」が増えていました。

(※左右差は発育ストレスのサインとして知られているので、幼虫期にかなり無理をさせられていたことがうかがえます。)

次に、研究者たちは「動き方」もチェックしました。

抽出液と砂糖で作った、いわば「甘いマジックマッシュルーム・スープ」に幼虫を1時間浸し、その後の3分間の動きを上からビデオで撮影したのです。

その結果、Psilocybe の抽出液に浸かった幼虫は、動いた距離も、動いていた時間も短くなり、進行方向を変えるときの角度が大きくバラバラになっていました。

つまり、まっすぐスイスイ進むのではなく、フラフラと方向を変えながら、短い距離だけ動くようになっていたのです。

動画にすると、対照の幼虫は画面の中に長い線をスーッと引くのに対し、抽出液に浸かった幼虫は短いギザギザの線をいくつも描いているような動きになります。

コラム:マジックマッシュルームの成分

マジックマッシュルームから作られる抽出液は、シロシビンを含む複数の成分が含まれています。過去に行われた研究では、同じ系統の抽出液が、いくつかの病原菌の増え方をゆっくりにする働きも報告されています。つまりキノコから見れば、この抽出液は「虫よけスプレー」であると同時に、「バイ菌よけ」や「カビ対策のコーティング剤」としても役に立っているかもしれないのです。さらに論文では、シロシビンから変化した分子が、傷ついたキノコの中で固まり、まるで補強材のように働く「ポリマー仮説」なども挙げられていて、一つの成分が状況に応じて役割を切り替える可能性が示されています。キノコがかじられた場所だけ青くなって固まり、虫にとってまずい成分や硬いバリアに変わる“トラップカード”のようなイメージです。虫を遠ざける、虫の行動を少しハックする、バイ菌の勢いを抑える、傷ついた部分を守る――こうして眺めてみると、マジックマッシュルームの抽出液はそうした役割を担っている可能性があり、キノコが長い進化の時間の中で組み上げてきた「多機能な化学の道具箱」そのものであり、人間から見ればほんの一部しか使いこなせていないマルチツールなのかもしれません。

さらに興味深いのは、シロシビンが主に標的にするはずのセロトニンを受け取るスイッチの一種(5-HT2A)をあまり持たない変異ハエでも、影響がむしろ強く出たことです。

これは、「シロシビンは5-HT2Aだけではなく、他のスイッチや体の仕組みにも同時に干渉しているかもしれない」と示唆します。

最後に、研究者たちは虫の「ご近所づきあい」も調べました。

イギリス・ダートムーアの草地や家畜のふんの上で、幻覚性キノコ Psilocybe semilanceata を含む7種類のキノコを集め、それぞれにどんな節足動物(ハエ、ハチ、ダニなど)が住みついているかをDNAを手掛かりに調べました。

その結果、Psilocybe semilanceata には、他の多くの草地キノコとは違うタイプの虫コミュニティがついていて、一部の非幻覚性キノコと同様に全体の多様性も低いことが分かりました。

つまり、「このキノコには住める虫」「あまり近づかない虫」という、見えない入場制限のようなものがかかっている気配があるのです。

実際に、見つかった虫グループのおよそ6割は「このキノコにだけ住んでいます」という専属客だったという結果も出ています。

これらの結果をまとめると、シロシビンを含むPsilocybe由来の成分は、ショウジョウバエのような昆虫に対して生存・成長・行動のどれにも不利に働いていると言えそうです。

次ページ人のトリップは、キノコと虫の戦いの“副産物”かもしれない

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