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「なんでグダってるのに高評価なの?」物語の破綻が気にならない条件 (2/2)

2026.02.01 17:00:17 Sunday

前ページ「没入感」が高いほど物語の破綻が気にならない

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物語のパーツを楽しむ人々

物語の破綻が気にならない理由は、どんな環境で楽しんだかという問題だけではありません。

そもそも読者が「物語の楽しみ方」そのものを変化させているという指摘もあります。

メディア研究者のヘンリー・ジェンキンズ(Henry Jenkins)氏は、熱心なファンたちの行動を「テキストの密猟(Textual Poaching)」という言葉で表現しました。

密猟という表現は、読者が作者(所有者)の意図に従うだけの存在ではなく、自分の楽しみのために、お気に入りのキャラや設定という「獲物」を作品から奪い取って楽しむ姿を例えたものです。

密猟者としての読者は、作者が用意した一本道のストーリーに受動的に従うのではなく、自分の社会経験や願望に合わせて、物語の一部を自分なりに解釈し直して楽しみます。

たとえば、物語全体のつじつまが合っていなくても、お気に入りのキャラクター同士の関係性や会話が魅力的ならば、それだけで満足する場合があるというのです。

このような読者は、物語の整合性や完成度はさほど重要視せず、自分の想像力を広げるための「素材の宝庫」としてどれだけ価値があったかで作品を評価します。

また、日本のサブカルチャーにおける評論でも似たような議論があり、この傾向は「データベース消費」という表現で説明されています。

読者は一貫したプロット(小さな物語)を消費するのではなく、設定やキャラクターの属性といった「データベース(大きな物語)」から、好みの要素を引き出して楽しんでいるというのです。

この場合、個別のエピソードに論理的な飛躍があっても、背後にある一貫した世界設定(サーガ / Saga)やキャラクターの魅力さえ守られていれば、読者の満足度は損なわれません。

キャラクターをどう見ているか:整合性の優先順位

さらに、読み手がキャラクターをどのような存在として捉えているかも、破綻への許容度に影響を与えていると考えられます。

ナラティブ理論の研究者であるジェームズ・フェラン(James Phelan)氏は、読者がキャラクターを捉える際の側面を3つに分類しました。

1つ目は、キャラクターを実在の人間のように捉える「擬人的(Mimetic)側面」です。

この側面を重視する読者は、心理的なリアリティや行動のつじつまを重んじるため、物語の「破綻」に対して非常に厳しく、些細な矛盾でも没入が妨げられてしまいます。

2つ目は、キャラクターを物語を動かすための「部品や記号」として捉える「構成的(Synthetic)側面」です。

読者がキャラクターを「特定の役割を果たすためのパーツ」として意識している場合、プロットの整合性よりも「期待通りの活躍をしたか」が重要視されるため、物語の破綻に対しても高い許容度を持ちます。

3つ目は、キャラクターをある思想やメッセージを代表する象徴として捉える「主題的(Thematic)側面」です。

例えば、寓話に登場する「あり得ないお人好し」のように、読者がそのキャラを通じて「何を表現しようとしているか」というテーマ性に注目している場合、メッセージを強調するための矛盾は「必要な演出」として受け入れられます。

絵本や童話はかなり突飛な展開が多いですが、それが気になって冷めるということがないのは、主題的側面でキャラクターを見ているためと考えられるかも知れません。

このため、物語の破綻が気になる人と気にならない人の違いには、「物語に何を期待しているか」という優先順位が関係してきます。

論理的な一貫性を求める読者にとって整合性の欠如は致命的ですが、キャラクターの魅力や世界観の設定に没入したい読者にとって、矛盾は楽しみを損なうほどの問題にはならない場合が多いのです。

物語はもはや書き手が提供する完璧な展開だけで成立するものではなくなっているのかもしれません。

高く評価される作品は、読み手が願望を織り交ぜて自由に楽しめるような、優れたパーツとしての側面も重要になっているのでしょう。

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