マウスの脂肪細胞を制御。人間への応用に期待
研究チームはさらに、YAPとTAZの下流で働くVGLL3という因子を特定しました。
単一細胞レベルで脂肪組織を詳しく解析した結果、YAPとTAZが活性化するとVGLL3の発現が大きく増えることが分かりました。
VGLL3は、脂肪細胞関連遺伝子のスイッチ部分に集まり、スイッチが入りにくい状態を作り出します。
DNAのまわりを巻いているタンパク質につく「印」が変わることでスイッチが切られたままになり、脂肪細胞分化に必要な遺伝子群が静かな状態に保たれるのです。
これはDNAの配列を書き換えるものではなく、エピジェネティックな仕組みによって遺伝子の働き方を調整する制御です。
この制御は、脂肪細胞になる途中の細胞だけに限られません。
マウスでは、YAPとTAZが強く働くと、すでに成熟した脂肪細胞でも脂肪細胞らしい特徴が弱まり、前駆細胞に近い状態へと変化する様子が確認されました。
脂肪細胞は一度できると基本的には固定される存在だと考えられてきましたが、その性質はエピジェネティックな制御によって変化し得ることが示されたのです。
研究チームは、この一連の仕組みをYAP/TAZ–VGLL3–PPARγ軸として整理し、「脂肪細胞がいつ、どの程度作られるのかを決める基本原理」だと位置づけています。
ただし重要なのは、ここで示された確かな証拠が、現時点ではマウス由来の細胞とマウス個体で得られた結果だという点です。
人間の脂肪組織でも同じように働くか、また安全に制御できるかは、これから慎重に検証していく必要があります。
それでも希望が持てるのは、この研究が「脂肪が増える・増えない」を単なる体重の問題ではなく、脂肪細胞の数や性質を決めるスイッチの仕組みとして具体的に示したからです。
もし将来、人の体内でも同様の制御原理が確認され、脂肪組織に対して狙いを絞った介入方法が確立できれば、それは様々な肥満問題を解決にすることに繋がります。
肥満や脂肪肝、インスリン抵抗性などの代謝疾患を、より精密に理解し、個々の状態に合わせて対策を考える手がかりになるかもしれないのです。



























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